研究課題
C16orf74のN末端14アミノ酸を部分的に欠損した変異体を作成し、免疫沈降でダイマー形成に重要な部位を確定した。結果的にN末端番目と14番目のシステインが、ダイマー形成に重要であることが判明した。C16orf74のN末端15アミノ酸と同一のペプチド配列と細胞膜透過性シグナルを組み合わせた11R-DB (dimer blocking) peptide を作成し、C16orf74のダイマー阻害実験を施行したところ、ペプチド用量依存性にダイマー阻害が観察された。また、膵癌細胞株に対する11R-DB治療実験を施行したところ、WSTアッセイによる細胞増殖抑制効果を得た。マトリゲルインベージョンアッセイとHUVEC細胞を用いた血管透過性の検討では、11R-DB治療群で浸潤能ならびに細胞透過性の抑制を示した。Wound healingアッセイでも、同様に11R-DB治療群で遊走能の低下を来した。さらに、マウス皮下モデル、同所移植モデル、腹膜播種モデルでの腫瘍抑制効果を確認した。また,摘出標本の免疫組織化学染色をKi-67,AKT,p-AKT,mTOR,p-mTORで行った。結果、11R-DB投与によりIn vitroの結果と同様に摘出標本でもAKTとmTORのリン酸化が抑制され、Ki-67Indexは有意差を持って低下していた。細胞骨格関連蛋白との細胞免疫染色ならびに免疫沈降法による検討から、C16orf74とインテグリンβ3との結合が示され、さらにαサブユニットの検索し、細胞株ごとに結合の程度は異なるが、C16orf74とIntegrinαⅤとαⅡbの結合が確認された。また11R-DB投与によるC16orf74-WT/FLAGとIntegrinβ3/HAの結合について検証し、C16orf74とIntegrinβ3の結合阻害が確認された。
2: おおむね順調に進展している
R1年度に予定していた下記2つの実験はおおむね順調に施行できた。(1)in vivoで確認した増殖抑制について、腫瘍細胞の免疫染色でシグナル伝達の経路を検証した。(2)インテグリンαVβ3との相互結合について、11R-DB投与による阻害実験を通して検証された。(3)当初予定していたiRGDモチーフを用いた細胞膜通過シグナルの検討については、in vitroでの細胞導入の確認を施行したが、iRGDによる導入効率が低く、細胞選択性と導入効率のバランスに課題が示された。
現在の細胞膜透過性シグナルはポリアルギニンを使用しているが、全ての細胞に取り込まれるという弱点がある。腫瘍血管(新生血管)内皮細胞や腫瘍間質細胞に効率的に分子を取り込ませるペプチド配列が報告され、RGDモチーフ(RGD4C)やiRGD (CRGDK/RGPD/EC)を用いたドラックデリバリーが注目されている。この配列をC16orf74阻害ペプチド配列に結合し、膵癌細胞導入効率ならびに増殖抑制効果を評価しているが、前年度の結果では、既報のような効率では導入されず、細胞培養条件やインキュベーション時間の検討を行っている。条件検討が終了した場合、下記計画に沿って研究を遂行する。①C16orf74阻害ペプチドに蛍光ラベルを行い(Alexsa594(red))、RGD4CまたはiRGDシグナルによるCPPの膵癌細胞の導入効率と細胞浸潤・増殖抑制効果を検討する。②ヒト膵癌株の同所移植モデルマウスを作成し、同CPPを腹腔内あるいは静脈内投与したのち、腫瘍内への取り込み率を蛍光顕微鏡で評価する。ルシフェラーゼを導入した膵癌腫瘍の系は確立済みで、ペプチドに蛍光ラベルすることで、腫瘍(green)とペプチド(red)のmargeにより腫瘍内への取り込み効果を評価する。In vitro/in vivoで従来のポリアルギニンシグナルペプチドと比較し、取り込み効率、投与量および腫瘍縮小効果を検証する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Molecular Cancer Therapeutics
巻: 19 ページ: 187~198
10.1158/1535-7163.MCT-19-0491