研究課題
平成30年度は、まずヒト胃癌細胞株からの癌幹細胞の抽出・培養を試みた。種々のヒト胃癌細胞株(MKN7、MKN28、MKN45、MKN74、KATO-III、NUGC-4)を胃癌細胞株を蛍光標識したCD44で処理し、癌幹細胞マーカー高発現細胞をcell sorterを用いてsortingし、sphere形成能を有する細胞のみを分離し、MKN74から癌幹細胞を培養することに成功した。MKN74由来癌幹細胞株は親株と比較し、CD44のmRNA、蛋白発現レベルが著明に上昇していた。樹立した癌幹細胞を接着プレートで培養し、再分化能を持つことを確認した。また、MKN74由来癌幹細胞株が親株に比して、CDDPに対する耐性を有することを確認した。MKN74由来癌幹細胞株と親株での遺伝子発現をmicroarrayを用いた網羅的解析により比較検討したところ、Ca2+, K+, Cl- channelなどの種々のイオン輸送体が癌幹細胞において高発現していることを確認した。イオンチャンネルに関連する遺伝子のうちカルシウムチャネル、特に電位依存性カルシウムチャネルの発現上昇に着目し研究を進めた。電位依存性カルシウムチャネルCACNA2D1、CACNB4のmRNAレベルがMKN74由来癌幹細胞株で著明に上昇していることをRT-PCRで確認した。現在、これらにカルシウムチャネルに対する阻害薬(アムロジピン、ベラパミル)を選択し、癌幹細胞特異的に増殖抑制効果を示すか否かを検証中である。一方で、上部消化管癌におけるSodium iodide symporter (Gastric Cancer. 2019)、Anion exchanger 2 (Oncotarget. 2018)、Chloride intracellular channel 1 (Oncotarget. 2018)、Aquaporin 1 (Oncotarget. 2018)などのイオン輸送体・pH制御因子・水輸送体の機能解析・臨床病理学的意義を解明した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のうち、ヒト胃癌細胞株を用いた癌幹細胞の作製と、癌幹細胞特異的に発現するイオン輸送体の同定の基礎実験は、ほぼ終了している。また、消化器癌における種々のイオン輸送体・pH制御因子の機能解析も進展しており、研究成果は既に国内外の学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、胃癌幹細胞株において高発現するCACNA2D1、CACNB4などの電位依存性カルシウムチャネルに対する阻害薬、アムロジピン、ベラパミルの抗癌幹細胞効果をin vitro、in vivo実験系で検証している。また、胃癌幹細胞株において高発現する他のイオン輸送体に対する阻害薬を選択し、癌幹細胞特異的な増殖抑制効果の解析も進行しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
次年度以降は、ターゲットとして選択したCa2+, K+, Cl- channelなどの種々のイオン輸送体阻害剤の、癌幹細胞特異的な増殖抑制効果をさらに検証するとともに、癌幹細胞内イオン濃度変化を介する細胞周期・アポトーシス制御機構の解明を試みる。また、ヒト胃癌組織における癌幹細胞マーカーの発現解析と、イオン輸送体発現との相関性を解析する。更に、in vivoにおける、阻害剤・RNA干渉を用いたイオン輸送体制御による皮下腫瘍成長抑制効果について検証するとともに、各条件の皮下腫瘍から癌幹細胞を抽出し、self-renewal capacityを解析する予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件)
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