大腸がんの肝転移は患者の予後を左右する極めて重要な事象であり、その機構の解明が望まれている。実際に大腸がんの転移の約7割は肝転移であり、肝指向性が認められる。がんの転移には、原発巣のがん細胞と転移先臓器の間質細胞との相互作用が重要であり、転移先臓器でがんの転移を支持する微小環境「ニッチ」を形成している場合、がんの転移の成立に寄与する。 本研究課題では大腸がんの治療において、「がん細胞」と「ニッチ」の両視点から大腸がん肝転移指向性の機構を解明し、間質細胞によるニッチの形成を阻害することにより大腸がんの肝転移を抑制することを目的とする。本年度は、肝臓間質細胞が分泌する大腸がん肝転移を支持する因子の探索ならびにマウスを用いた大腸がん肝転移モデルの構築を行い、下記の結果を得た。 In vitroの実験において、ヒトおよびマウスの肝臓間質細胞の培養上清が顕著に大腸がんの増殖性を亢進させたことから、肝臓間質細胞が分泌する大腸がんの増殖性を亢進させる因子の同定を試みた。ヒトおよびマウスの肝臓間質細胞の培養上清中に含まれる因子を網羅的に検討した結果、共通して関与が認められた4種の因子を同定した。現在これらの因子を一つずつ詳細に解析しており、各因子の重要性について検討中である。 in vivoの実験において、緑色蛍光タンパク質(GFP)を過剰発現させた大腸がん細胞を樹立し、マウスを用いた大腸がん肝転移モデルを構築した。脾臓に大腸がん細胞を打ち込んで、約3週間後にマウスをサクリファイスして肝臓を調べた結果、十分な肝転移が認められた。
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