研究課題/領域番号 |
18K08699
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
深谷 昌秀 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (10420382)
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研究分担者 |
梛野 正人 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (20237564)
國料 俊男 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (60378023)
山口 淳平 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00566987)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 食道癌 / barrett食道 / TFF |
研究実績の概要 |
化学療法や手術療法を用いた集学的治療が発達した現在においても食道癌は致死率の高い悪性腫瘍であり、その病態の解明や新たな治療戦略が必須である。食道腺癌は食道の慢性炎症と相関し、食道胃逆流症(GERD; gastroesophageal reflex disease)と密接な関係がある。また食道腺癌のリスクファクターとして最も重要なものはBarrett食道(Barrett上皮)であり、Barrett食道からdysplasiaを経て腺癌へと進行するものと考えられる。またBarrett食道はTrefoil Factor Family (TFF)の発現が特徴的であり、TFFはBarrett上皮のマーカーとして用いられてきた。一方でTFFは消化管粘膜上皮再生に寄与するのと同時に、近年では癌抑制遺伝子としての役割が重要であることが示唆されている。Barrett食道におけるTFF発現の意義はこれまでに明らかにされていないが、同様の作用があるとするならば、TFFは食道腺癌に対する癌抑制遺伝子として作用していると考えられる。実験動物におけるBarrett上皮発生モデルについては、従来よりラットに対する食道空腸吻合が用いられてきたが、我々はマウスに対する食道空腸吻合術手技を確立した。これによりTFFノックアウトマウスモデル(TFF1-KO, TFF2-KO)に対して食道空腸吻合を施行し、Barrett上皮形成とBarrett腺癌発生に対するTFFの影響を検討することが可能となった。この研究の目的は、このTFF-KO/Barrett発生マウスモデルを用いて食道癌に対するTFFの役割を解明し、さらにはTFFを用いた新規食道癌治療戦略を展開することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスに対する食道空腸吻合は、臓器のサイズが小さいことなどから非常に難易度が高い。しかしこれまでの報告で、食道空腸吻合よりも胃空腸吻合の方がBarrett上皮発生率が高いことが示唆されている。また手技的に、極端に細く壁の薄い食道よりも壁組織が強固である胃のほうが空腸を吻合する対象としては理想的である。我々は試行錯誤によりマウスに対する胃空腸吻合術を確立したが、術後縫合不全による死亡率を許容範囲まで改善するのに相応の時間を要した。最終的に野生型マウス、TFF1KOマウス、TFF2KOマウスそれぞれ約30匹に対して胃食道吻合術を施行し、術後死亡率は10%程度に抑えられており、また術後一年以上の長期間生存を達成した。 当初の目標では術後10カ月のマウスにおいてBarrett食道が発生する公算であったが、術後10カ月の各マウス食道を組織学的に検索したところ、典型的なBarrett食道の発生は認められなかった。これは過去の報告と矛盾する結果でありその原因は現在のところ不明である。ただし、Squamocolumnar junction (SCJ: 扁平円柱上皮境界)は胃空腸吻合マウスにおいて口側に移動していることが判明した。通常Barrett食道はSCJが食道胃接合部(EGJ: esophagogastric junction)を超えて口側、つまり食道内に移動することにより発生する。こうした発生機序を考慮すれば、SCJの移動という結果はBarrett食道発生の前兆であることが示唆される。また各TFFKOマウスにおいては野生型マウスよりSCJの移動幅が大きく、TFFKOではBarrett食道が発生しやすいことが示唆された。いずれにせよ我々のマウスモデルで典型的なBarrett食道や食道癌が発生するまでにはまだ時間が必要であり、総じて研究の進歩状況としては当初の見込みよりは遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
術後10カ月の食道空腸吻合マウスで典型的なBarrett食道が完成していないこと、およびTFFKOマウスにおける胃上皮異型性発生までの期間が20カ月という過去の報告などを踏まえ、今後は術後15カ月、20カ月、25カ月においてマウス食道標本を作製してBarrett上皮の有無、食道癌発生の有無を確認する。マウスの手術はすべて施行済みであり、すべての標本の作製が終了するまでに必要な期間はあと約1年となる見込みである。得られた標本は発生したBarrett上皮の進展度、異型上皮の発生頻度、食道癌の発生頻度などを比較することで、Barrett上皮または食道癌に対するTFFの役割を追求する。 同時に、vitroにおける検討も開始する予定である。ヒト食道扁平上皮癌細胞株において、RNAおよびタンパクレベルの各TFFの発現を確認する。その後、強制発現ベクターまたはsiRNAを用いて食道癌細胞の各TFFの発現を制御し、細胞増殖活性および浸潤能を測定する。またEMT(上皮間葉転換)の程度を測定する。これらの結果を比較検討することで、TFFによる食道癌抑制作用の有無とそのメカニズムを明らかにする。さらに蛍光二重免疫染色により扁平上皮癌(SCC: squamous cell carcinoma)のマーカーとしてp63, CK5/6を、腺癌(AC: adenocarcinoma)のマーカーとして TTF-1, Napsin A、KRT7およびPAS染色を用いることでTFFの食道癌分化傾向(SCCまたはAC)に対する影響を比較検討する。
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