研究課題/領域番号 |
18K08701
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福光 剣 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (70700516)
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研究分担者 |
上本 伸二 京都大学, 医学研究科, 教授 (40252449)
石井 隆道 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (70456789)
河合 隆之 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (00813867)
小木曾 聡 京都大学, 医学研究科, 助教 (10804734)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 再生医療 / 臓器作製 / 細胞外基質 |
研究実績の概要 |
脱細胞化肝臓に血液を安定的に環流するための装置を開発した。ラットの頸動脈にカニュレーションし、ペリスタポンプを間に挟んで脱細胞化肝臓の門脈に接続する。肝静脈より排出された血液をまたペリスタポンプを挟んでラット経静脈と通じて返血することで、脱細胞化肝臓に血液を環流させることとした。血小板沈着の評価を行うため、使用するラットの体重、血液循環速度、添加するヘパリンの濃度などを調整し、安定した実験系を確立した。次に、ラットに肝障害を加えて、体外に再細胞化肝臓を接続したが、ラットの体外に還流する血液量が多く循環血液量が不足しラットの血圧を維持することが困難な場合があることが判明した。そこで、一定量の補液、輸血を行うことで循環動態を安定化することでシステムを稼働させることとした。グラフトとして使用する脱細胞化肝臓は、鋳型としては全肝の脱細胞化組織を用いるが、再細胞化する細胞についても検討を行い、生体肝臓に含まれる肝細胞数の一部を用いることとした。今後、肝障害の方法については、肝切除モデルだけでなく、薬剤性障害モデルも併用しながら、肝機能をサポートするシステムを構築する。 また、グラフト内に血小板が沈着し血栓を形成することで血液還流が阻害される問題については、抗血小板作用を有するポリマーを新たに開発した。この新規ポリマーを脱細胞化肝臓の内部をコーティングすることで、肝機能を向上させることを目的とした。コーティングの条件を最適化したうえで、血液還流の際の血小板沈着の抑制効果を評価しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱細胞化肝臓に血液を安定的に環流するための装置を開発した。ラットの頸動脈にカニュレーションし、ペリスタポンプを間に挟んで脱細胞化肝臓の門脈に接続する。肝静脈より排出された血液をまたペリスタポンプを挟んでラット経静脈と通じて返血することで、脱細胞化肝臓に血液を環流させることとした。血小板沈着の評価を行うため、使用するラットの体重は400g以上とし、血液循環速度は1.0ml/min、添加するヘパリンの濃度などを調整し、安定した実験系を確立した。次に、90%肝切除による肝障害モデルラットを用いて実験を行った。この状態で回路を接続したところ、ラットは数時間で死亡し、長期生存を得ることができなかった。原因として、90%肝切除の侵襲に加え、循環血液量の不足が過大侵襲と考えられたため、10mlの輸血を行うこととしたところ、ラットの生存時間は著名に延長し、実験を継続することができると判断した。細胞を生着させていない脱細胞化肝臓(コントロール)と再細胞化肝臓を用いて比較実験を行ったところ、システムは問題なく稼働したが、2群間に有意な生存率の差を認めることができず、原因の一つとして、本システムを用いるにあたって、90%肝切除が過大侵襲である可能性を考えた。グラフト内に血小板が沈着し血栓を形成する問題については、抗血小板作用を有するポリマーを新たに開発することとした。東京大学工学部の研究室と共同研究契約を締結し、既に人工心臓に用いる金属に親和性のあるポリマーを生体に親和性を持つように側鎖を改変したポリマーを新たに作製する試みを始めた。血小板沈着の評価として、HE染色の他にCD42bによる免疫染色を用いることとした。肝細胞癌の発がんモデルであるトランスジェニックマウスについては、アメリカから譲り受けた受精卵から起こして、現在交配を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ラットの体外循環式人工肝臓のシステムが稼働することが確認できたが、90%肝切除モデルは過大侵襲であると考えられたため、肝障害モデルを変更する。70%肝切除モデルは、そもそも全例が生存するモデルのため、薬剤性肝障害モデルを採用することとし、ガラクトサミンを用いることとする。文献上は、1.4g/Kgによる腹腔内注射にて肝障害を加えることができるが、本実験では400g以上の比較的大きなラットを用いることもあり、まずは薬剤の投与条件を最適化することから始める。薬剤性肝障害モデルラットに体外式再細胞化肝臓を接続し、肝障害度マーカー(AST、ALT、ビリルビンなど)と生存率を指標にデータを収集する。 また、血液を環流する際に血栓形成が問題となるが、新たに開発した、生体組織親和性を持つ抗血小板作用を有するポリマーの機能を評価する。新たな合成したポリマーに、FITCでラベルして、脱細胞化組織に対するコーティングの効率を様々な条件で行い、FITCの蛍光を指標にコーティングの最適な条件を絞っていく。次に、実際に血液を環流して血小板の沈着をHE染色と免疫染色(CD42b)にて評価したうえで最終的に最適なコーティング条件を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月中旬に開催された学会参加費を当研究費より支出する予定であったが、手続きが間に合わず、来年度へ繰り越しとした。
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