研究課題
膵全摘術は膵機能の廃絶を招くため、インスリン注射を必要とする糖尿病と膵酵素欠損により膵外分泌機能不全を呈し、QOL低下を著しく招く術式として理解されてきた。近年の周術期管理の向上により、改善傾向にあるとされるも膵全摘術前術後における長期の前向きQOL調査や栄養指標、膵性糖尿病についての前向き研究による報告はない。本研究は膵全摘予定患者を対象として、術前および術後1年後におけるQOL評価、血糖コントロール状況、脂肪肝発生頻度を明らかにすることを目的とした全国多施設共同前向き研究である。全国71施設以上より286例症例が登録された。集計したデータを用いて、膵全摘患者のQOL調査(近畿大学)、膵全摘後の脂肪肝発生頻度とリスク解析(三重大学)、膵全摘の栄養指標と糖尿病コントロールについての解析(香川大学)の3つの研究を行った。SF36によるQOL評価では「心の健康」は術前より改善を認めたがその他6項目では増悪していた。膵癌の有無、術前糖尿病の有無では術後QOLに差を認めなかった (論文作成中)。術後脂肪肝の発生頻度は19.6%と比較的低く、女性、高BMI、術後下痢が術後脂肪肝発生の危険因子であった(J Hepatobiliary Pancreat Sci Online ahead of print, 2021)。術後血糖コントロールは術後3ヶ月で概ね安定し、HbA1c値は7.0%~8.0%の高値で推移する。栄養指標は術後1ヶ月で最も低下し、3ヶ月で改善以降はほぼ横ばいで推移する。一期的膵全摘術と残膵全摘術の術後推移はほぼ同等であった(Br J Surg 108: e237-e-238, 2021)。以上の結果により、膵全摘術予定患者への情報提供、膵全摘術術後のより質の高い周術期管理法が可能となる。また、本研究で得られた結果をさらに改善することが、新たな課題として抽出された。
3: やや遅れている
膵全摘患者のQOL調査結果の論文化のみ達成されていないため。
膵全摘患者のQOL調査の結果を論文化する。
論文が未完成であったため、次年度使用額が生じた。論文投稿料等に使用予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件)
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