近年、細胞外セリンプロテアーゼのひとつであるヒアルロン酸結合タンパクHABP2(Hyaluronan Binding Protein 2)が、低分子ヒアルロン酸による癌細胞の遊走能亢進に有用な役割を果たしている可能性が報告された。しかしながら、膵癌でのHABP2の役割については不明である。本研究の目的は、膵癌におけるHABP2 (Hyaluronan Binding Protein 2)の生物学的役割(悪性形質への関与)を、とくに低分子ヒアルロン酸との相互作用から明らかとすることである。これまでに以下の実験を行い、新たな知見を得た。 1.CRISPR/Cas9ゲノム編集を行い、HABP2を高発現しているSUIT-2のHABP2ノックアウトクローンを作成したところ、細胞遊走能が著明に低下し、CDH1 mRNA発現が亢進し、一方で、CDH2、Vimentin mRNA発現が抑制された。 2.HABP2の発現が低いBxPC3に遺伝子導入によってHABP2強制発現クローンを作成したところ、遊走能が亢進し、CDH1 mRNA発現が抑制、CDH2、Vimentin mRNA発現が亢進していた。 以上の結果より、HABP2は、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition : EMT)を介して膵癌細胞の遊走能を高めており、膵癌の悪性化に関与している可能性が認められた。 現在、膵癌切除検体を用いた免疫染色を行っており、結果がまとまり次第論文を作成し報告を行う準備を行なっている。
|