本研究の目的は、①経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)術前の大動脈弁複合体の形態を石灰化病変を含めて詳細に解析し、解剖学的脳塞栓ハイリスク条件を抽出する②人工弁留置時に自己弁にかかる力学的特性を有限要素法を用いて検討することで石灰化病変破砕(塞栓子発症)メカニズムを解明することであった。 ①に関しては、術前CTデータを三次元画像解析専用ソフト3mensioを用いて、術前に通常行う解剖学的計測に加え、石灰化容量・分布を定量化して評価を行った。石灰化容量の大きい症例で脳塞栓症の発症が多いこと、3つの弁尖の石灰化の分布が不均衡であることが脳梗塞症発症のリスクであることが示唆された。しかし、石灰化の分布の不均衡を数値化することが難しく、石灰化分布不均衡が脳塞栓症発症のリスクであることを定量的に有意差をもって示すことはできなかった。引き続き弁尖石灰化の不均衡を数値化して評価する方法を模索し、脳塞栓症発症予測に役立てていきたいと考えている。 ②に関しては、石灰化1点にかかる力学的特性を示し、その変化を予測することが可能であった。しかし、筒状の組織である大動脈輪に付着した自己弁にかかる力を全周性に予測すること、組成が不均一な石灰化を数値化して取り込んで有限要素法の測定に組み込むことは、数値化およびその入力に膨大な時間と労力を要することとなり、期間内にデータを抽出することは困難であると判断した。弁輪ではなく弁尖を1つの平面とみなし、不均一な石灰化をより簡略化して数値化し、1つの弁尖が破壊される過程を予測することは可能であると考えられることから、今後も簡略化したモデルを用いて脳塞栓症の発症リスク予測が可能であるか、研究を継続していく予定である。
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