今回の研究の目的は、重症虚血を合併した末梢動脈疾患の予後に悪性腫瘍がどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。2013 年から2015 年に血行再建術を受けた、NCD データベース上に登録された重症虚血患者を対象に2年間追跡した。対象期間中に登録された 2967例の患者中、外科的血行再建(ハイブリッド治療含む)は 1754 例、血管内治療は 1206 例であった。144 例(4.9%)で血行再建の時点で悪性腫瘍を合併もしくはフォロー期間中に新たな悪性腫瘍を合併していた。一次開存率、Major adverse limb events (MALE)、心血管死亡については外科的血行再建症例ならびに血管内治療症例の両方において、悪性腫瘍を合併した群とそうでない群の間に有意差を認めなかった。悪性腫瘍を合併した群がどちらの治療においても生存率は低くなったが、外科的血行再建を受けた症例においては、遠隔期で生存率の差がより顕著であった。両群間の患者背景は外科的血行再建群で男性、脂質異常症、喫煙、虚血性心疾患、Rutherford 6 が有意に多く、血管内治療では心不全、脳血管障害、腎機能障害が多かった。結論としては、重症虚血を合併した末梢動脈疾患の患者の約5%に血行再建時もしくはフォロー期間中に悪性腫瘍の合併を認めた。ただ、悪性腫瘍の合併は一次開存率や MALE+大切断など肢の予後には影響を与えず、治療法によっても差は認めなかった。悪性腫瘍を合併した場合、全体生存率は当然低くなるが、外科的血行再建群の方において、悪性腫瘍ありなしでの生存率の差がより顕著であった。しかし患者背景が大きく異なること、生存率の差は術後早期期では変わらないこと、 MALE+大切断には差がないことから、外科的血行再建群を選択したことが全体生存率に影響を与えた可能性は低いと考える。
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