研究課題/領域番号 |
18K08747
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
西田 憲史 久留米大学, 医学部, 助教 (50624508)
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研究分担者 |
青木 浩樹 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60322244)
田中 啓之 久留米大学, 医学部, 教授 (70197466)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / 塩分負荷 / IL-17 / 細胞外マトリックス |
研究実績の概要 |
近年の研究から大動脈解離病態への炎症応答や細胞外マトリックス(ECM)代謝異常の関与が明らかにされつつある。申請者は塩分過剰がIL-17を介してECM合成を抑制し大動脈解離を増悪させることを明らかにした。しかし、そのメカニズムは不明である。塩分過剰、IL-17、ECM代謝に着目して塩分過剰が大動脈解離を増悪させるメカニズムを明らかにし、大動脈解離病態を解明することを目的に研究を進めた。まず、マウス大動脈組織において塩分過剰が炎症応答やECM代謝に及ぼす影響を検討した。解離刺激は炎症マーカーであるP-Stat3、P-Jnkの発現を亢進させた。塩分過剰は単独ではP-Stat3、P-JNKを変化させなかったが、解離刺激による発現亢進を増強した。また同様の所見が血管平滑筋の合成フェノタイプマーカーであるSMembで認めた。これらの結果から、塩分過剰は解離刺激下で炎症応答の増進、細胞外マトリックス代謝の活性化を引き起こしていることが示唆された。次に、ECM代謝におけるIL-17の役割を血管平滑筋細胞で検討した。TGF-βはSmad2のリン酸化(P-Smad2)を増加させたが、IL-17の存在下ではP-Smad2増加は抑制された。したがって、IL-17は直接的にTGF-β-Smad2経路を抑制すると考えられた。当研究グループで血管強度測定装置を開発し、マウス大動脈組織の物理的特性を解析した。IL-17KOマウスは野生型マウスより大動脈剛性が低い(進展性が高い)ことが明らかになった。これらの実験および過去の知見から、塩分過剰はIL-17感受性を高め、TGF-β-Smad2経路、ECM代謝を抑制し大動脈解離を増悪させていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩分過剰が大動脈解離増悪をきたすメカニズム解明のため、Salt-Inducible kinase(SIK)に着目している。今回の検討から、塩分過剰がIL-17経路を介してTGF-β経路を抑制することがECM合成の変調をきたすことが示された。この知見は、SIKの役割を解明するにあたりIL-17、TGFβ経路およびECM合成系に着目すべきであることを示唆する。 今後、これらの分子経路に着目して大動脈解離病態におけるSIKの役割を明らかにし、塩分過剰が大動脈組織の炎症と脆弱性をきたす病態メカニズムを明確にする。
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今後の研究の推進方策 |
塩分過剰が大動脈解離の炎症と脆弱性を来す病態メカニズムを明らかにするために、Salt inducible Kinase(SIK)に着目して解析を継続する。具体的には、マウス大動脈解離モデルを用いて、SIKの各アイソフォームの発現時期、発現細胞を定量的PCRとウェスタンブロットおよび免疫染色で明らかにし、塩分過剰状態での発現変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
塩分過剰が解離病態を増悪させる際の分子的作用点を明らかにするために、現有するIL-17ノックアウトマウスを利用した解析を優先した。この方策によりSIKが関与し得る作用点を明らかにすることができ、またSIKの作用を明らかにするための高額な網羅的解析を回避した。次年度は、SIKおよびその作用点に焦点をあてた解析を進め、当該実験に必要なマウスおよび試薬類を購入する。
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