研究課題/領域番号 |
18K08770
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382898)
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研究分担者 |
坂元 尚哉 首都大学東京, システムデザイン研究科, 准教授 (20361115)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
伊藤 智 自治医科大学, 医学部, 講師 (30382881)
田中 正史 日本大学, 医学部, 教授 (80382927)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / 数値流体力学計算 / 大動脈拡大 |
研究実績の概要 |
急性期治療成績の向上に伴い、遠隔期に下行大動脈に追加治療が実施される大動脈解離症例は増加している。偽腔開存が大動脈拡大の危険因子として報告され、血行力学的因子の関与も推測されるが、解離性大動脈瘤の発症・進展機序は十分に解明されていない。本研究は、下行大動脈置換術を施行する慢性大動脈解離症例を対象に数値流体力学計算(CFD: computational fluid dynamics)を実施し、真腔と偽腔の血流動態を明らかにする。大動脈壁にかかる圧力やせん断応力などの分布図を作成後、大動脈組織の構造変化とCFD解析の関連性を検証することを目的としている。 2018年度は、名古屋工業大学医用生体工学研究室中村匡徳教授の研究室とともに、急性/慢性大動脈解離患者の3DCT造影CTデータを元に、専用解析ソフトウエア(SCRYU Software Cradle)を用いて、慢性大動脈解離の血流解析モデルの構築を目指した。具体的には、急性A型解離術後の下行大動脈拡大に対して、大動脈ステント治療を実施した症例(66歳女性)におけるステント挿入術前/手術1カ月後の血行動態パラメーターに関するCFD解析を実施した。結果は、ステント治療1カ月後、偽腔血栓化とともに真腔の拡大・偽腔の血栓化・真腔血流速度の減少・下行大動脈壁に対するせん断応力と圧力の減少が確認された。この結果と合致し、ステント治療2年後の造影CTデータでは、下行大動脈におけるリモデリング進行・大動脈径の縮小化(56mm→52mm)が確認された。本解析結果は、慢性大動脈解離に対して適応が拡大しつつあるステント治療の予後予測因子としてのCFD血流解析の有用性を示唆するものである。今後、ステント治療非有効例を含めた複数症例の解析も施行して、ステント治療の治療成績の向上にもつなげたいと考えている。本研究結果は、第80回日本臨床外科学会総会・第83回日本循環器学会学術集会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他の大動脈疾患と比較して、大動脈解離症例は複雑な解剖学的形態(真腔・偽腔・intimal tear・偽腔内血栓)を有する。このため、非大動脈解離症例と比較して、大動脈解離症例に対するCFDは、より複雑な解析処理が必要となる。2018年度は、名古屋工業大学医用生体工学研究室中村匡徳教授の研究室とともに、急性/慢性大動脈解離患者の3DCT造影CTデータを元に、専用解析ソフトウエア(SCRYU Software Cradle)を用いて、慢性大動脈解離の血流解析モデルの構築を目指した。現在までに、慢性大動脈解離2症例のCFD解析を大動脈ステント治療前後など時相別に実施しており、今後症例数を増やし、本実験モデルを継続する予定である。 また、胸部大動脈疾患の新しい疾患カテゴリーとして注目されているnon-A non-B 型大動脈解離症例に着目し、本疾患概念を世界で初めて報告した(Eur J Cardiothorac Surg. 2017;52:1111-7)The University Medical Center Freiburg のRylski博士より患者CT画像データの提供を受け、non-A non-B 型大動脈解離4症例のCFD解析も実施した。結果は、急性期に大動脈破裂死亡したnon-A non-B 型大動脈解離症例では、真腔/偽腔ともに高いせん断応力分布が確認され、本疾患の特異的な血行力学的特徴が示唆された。non-A non-B 型大動脈解離のCFD解析実験も継続予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、名古屋工業大学医用生体工学研究室中村匡徳教授の研究室と共同で、急性/慢性大動脈解離症例に対するCFD血流解析実験を継続する。患者データに関しては、自治医科大学さいたま医療センターだけでなく、共同研究機関であるThe University Medical Center Freiburg及び日本大学病院から提供された画像データも使用する予定である。 大動脈解離症例の解剖学的特徴は多岐にわたるため、患者個別で真腔と偽腔の血流動態を明らかにして、対象領域における血行力学因子の分布図を構築する。特に大動脈ステント治療前後の血行力学因子の分布図を同一患者で経時的に作成して、予後予測toolとしてのCFDの有用性を検証する。また、CFD解析のvalidation目的に慢性大動脈解離症例の大動脈壁の構造変化を、HE染色・EVG染色を行い光学顕微鏡で評価する。電子顕微鏡を使用した血管内皮細胞や血管平滑筋細胞、中膜弾性線維の形態変化の観察も検討している。 急性大動脈解離においては、大動脈壁に対するせん断応力の上昇が破裂や臓器潅流障害などの大動脈イベント発生をもたらす可能性が他研究グループによるCFD研究で報告されている(Shang EK, et al. J Vasc Surg 2015;62:279-84)。壁せん断応力が及ぼす生体変化に関しては、首都大学東京システムデザイン学部坂元尚哉准教授の研究室と共同で、大動脈血管平滑筋細胞及び血管内皮細胞を使用したせん断応力負荷のin vitro実験モデルを使用して今後解析予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成30年度は、大動脈解離症例に対するCFD解析システムの構築を主に行い、共同研究機関である名古屋工業大学・日本大学・首都大学東京では、それぞれ共同研究活動費として、分担金を使用した。平成30年度は、大動脈組織検体を用いた解析実験(遺伝子解析・免疫組織染色など・フローサイトメトリーなど)は実施しなかったため、次年度使用額が発生した。 (使用計画)今後も共同研究チームで、大動脈解離に起因する胸部/腹部大動脈拡大症例を対象としたCFD解析を継続して行う。また、The University Medical Center Freiburgとのnon-A non-B型大動脈解離に関する国際共同研究も継続して実施する。解析作業に必要な血流解析ソフトウエア・パソコンの新規購入を検討している他、大動脈組織検体を使用した実験(免疫組織染色、大動脈組織から炎症細胞を抽出して行うフローサイトメトリーや定量的PCR)を予定している。また、論文作成に際しての、英文校正費用も研究費から捻出する予定である。
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