研究課題
本研究は、増殖型レトロウイルスベクター(RRV)を用いて標的腫瘍細胞内で酵母由来シトシンデアミナーゼ酵素(yCD)を発現させることで抗真菌薬であるフルシトシン(5FC)を抗癌剤であるフルオロウラシル(5FU)に変換して抗腫瘍効果を得ることを目的としたプロドラッグシステムと遺伝子発現システムを組み合わせた肺癌における新規治療法の確立を目指している。まず、緑色蛍光タンパク(GFP)遺伝子をマーカーとして組み込まれたRRVを用いて、ヒトおよびマウス肺癌細胞株における感染効率、増殖能、遺伝子導入効率をin vitroで検討した。蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、ゲノム定量PCRを用いることで、その高い感染効率と速やかな増殖能が組織型の異なる複数の肺癌細胞株において確認された。続いて、プロドラッグ変換酵素であるyCD遺伝子を有するRRVを感染させた培養ヒトおよびマウス肺癌細胞株において、5FCを投与による強力な殺細胞効果がMTSアッセイで確認された。次に、ヒト肺癌細胞株マウス皮下移植モデルを作製し、フローサイトメトリーを用いてRRVの感染効率と増殖能を測定したところ、感染細胞数は約1%から速やかに増加し2週間で80%を超える導入効率を示した。さらに、RRVを感染させたマウス皮下腫瘍モデルに対する5FC腹腔内投与では、コントロール群に比較して有意に腫瘍の増大が抑制された。また、胸膜播種同所移植モデルでもIVIS生体イメージングシステムによりRRVの高い腫瘍選択性と優れた感染能が確認され、5FC投与による治療群においてはコントロール群と比較し有意に生存期間が延長した。安全性試験としては、ゲノム定量PCRを用いてRRVのバイオディストリビューション解析を行った。以上の前臨床研究において本治療システムの治療効果と安全性を確認できたので、今後は国内臨床試験に向けて環境を整えていく予定である。
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