研究課題/領域番号 |
18K08777
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大石 久 東北大学, 大学病院, 助教 (60451580)
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研究分担者 |
松田 安史 東北大学, 大学病院, 助教 (00455833)
野田 雅史 東北大学, 大学病院, 講師 (70400356)
岡田 克典 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (90323104)
兼平 雅彦 東北大学, 大学病院, 助教 (90374941)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 肺移植 / 慢性移植肺機能不全 / CTLA4-Ig / Type 1 regulatory T細胞 |
研究実績の概要 |
我々は、臓器移植後の免疫寛容において重要な役割を果たすとされている制御性T細胞のサブセットの1つであるType 1 regulatory T(Tr1)細胞による細胞治療の可能性を研究した。マウス脾臓からリンパ球を分離し、Tr1細胞の染色を先行研究に則って行い、Tr1細胞の染色に成功した。一方で、リンパ球のうちTr1細胞の占める割合は低く、自動磁気細胞分離装置やセルソーティングにより、細胞治療に必要なTr1細胞を得るには、多数のマウスの脾臓が必要となることも明らかになり非現実的であることが明らかとなった。 バックアップの計画として、計画ではT r 1 細胞誘導効果による実験を行うこととしていた。ある臨床研究では、関節リウマチの治療として、国内で承認を得たアバタセプト(CTLA4-Ig製剤)の投与は、その患者の末梢血においてIL-10産生LAG-3陽性細胞を誘導することを報告した。同細胞はさまざまな報告からTr1細胞と考えられている。 我々は計画書に従い、慢性移植肺機能不全(Chronic lung allograft dysfunction: CLAD)の動物モデルとして確立しているマウス肺内気管移植モデルを使用することとした。同モデルにおいて、移植後当日、7・14・21日目にCTLA4-Ig製剤の投与を行い、28日目にマウスを犠牲死させて分子生物学的・組織学的評価を行った。実験は現在進行中だが、CTLA4-Ig製剤の投与は、肺内、末梢血、縦隔リンパ節において、T r 1 細胞を増加させる傾向にあることが明らかとなった。さらに、CTLA4-Ig製剤は同モデルにおいて、移植された気管内の線維性閉塞を有意に抑制することが明らかとなり、CTLA4-Ig製剤には、CLADの予防効果があり、そのメカニズムにはT r 1 細胞の誘導が関わっている可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tr1細胞の染色に成功したものの、自動磁気細胞分離装置またはフローサイトメトリーのセルソーティングの技術により得られるTr1細胞数は、細胞治療に十分とは言えないことも明らかとなった。よって、計画書に対応策として予定していたTr1細胞の誘導による実験を行った。現時点では、仮説を支持するような結果が出つつあり、研究の進捗状況はおおむね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり本研究では、生体内のCTLA4-Ig製剤の投与によるTr1細胞の誘導は、CLADモデルであるマウス肺内気管移植モデルにおいて、移植された気管内の線維性閉塞を有意に抑制することが明らかとなった。ヒト肺移植の術後1年目以降の死因のトップでありながら、有効な治療手段のないCLADに対して新規治療戦略のひとつとなりうることを示唆することができた。 一方で、マウス肺内気管移植モデルにおけるCTLA4-Ig製剤の移植気管内の線維性閉塞抑制効果のメカニズムには、Tr1細胞の誘導が関わっていることが示唆されたが、まだ根拠として十分な結果ではない。ほかの経路のメカニズムも含めて、今後は分子生物学的な手法を用いて広く研究していくつもりである。 また同モデルよりも、よりヒト肺移植の状態に近いとされる同所性肺移植モデルにおけるCTLA4-Ig製剤の投与の実験を行うことを目指しており、今後準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は動物モデル作成のために使用したマウスが、当初の予定よりも少ない匹数で結果を出すことができたため、次年度使用額が生じた。来年度はよりヒト肺移植の状態に近いとされる同所性肺移植モデルにおける実験も開始するために、マウスの匹数も多く必要となるので、来年度分として請求した助成金と合わせて使用することとなる予定である。
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