研究課題/領域番号 |
18K08779
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
似鳥 純一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (40424486)
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研究分担者 |
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
佐藤 雅昭 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (00623109)
安樂 真樹 東京大学, 医学部附属病院, 特定研究員 (70598557)
長山 和弘 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (00647935)
北野 健太郎 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70647073)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺癌 / 癌特異的蛍光プローブ / 転移性肺腫瘍 / 迅速診断 / 癌細胞遺残 / 胸腺腫 / 悪性胸膜中皮腫 |
研究実績の概要 |
手術による根治を目指す上で最も重要なのは再発を制圧する切除範囲を決定することであり、癌細胞遺残は最も避けなければならないことである。以前より術中に簡易的に診断・癌細胞の同定する方法が求められているものの未だ十分ものがないのが現状である。 我々は初期の基礎研究において蛍光プローブgGlu-HMRGを用いて肺腺癌細胞株(A549、H441)の蛍光画像から癌細胞を認識可能であることを証明した。(日野らTransl Oncol, 2016) そこで「肺腺癌およびその組織亜型」の検出を目指し、手術検体を用いて、新規創製した約300種類の癌特異的蛍光プローブ(浦野ら, Sci Transl med, 2011)の蛍光強度を測定した。肺腺癌の手術検体を用いた研究ではライセートスクリーニング結果をもとに選定した蛍光プローブ(7種類)の中で3種類の蛍光プローブが平均AUC:0.83 (0.815-0.84)であり、識別能力が良好であることが証明され、肺癌特異的蛍光プローブとなる可能性が示唆された。 本研究では新規癌特異的蛍光プローブを用いた「術中迅速癌細胞遺残診断」を目指している。具体的には、①肺癌や他癌肺転移に対する肺切除の際の切除断端遺残、②胸腺腫摘除の際の胸腔内播種、④悪性胸膜中皮腫手術の際の胸腔内癌細胞遺残の診断に有用と考えている。また、癌細胞遺残ではないが、近年、肺癌再発因子の一つとして注目されているSpread Through Air Spaces (STAS)は腫瘍周囲の肺胞腔内にばら蒔かれた肺癌細胞(Spread through air space: STAS)を示しているが、これに関しても術中同定、術中診断が可能となれば、手術切除範囲の決定につながっていくと考えている。しかし、現時点では蛍光プローブ毎、組織型毎に蛍光強度の違いがあり、その選別・同定に困難を極めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は2017年1月に改訂された肺癌TNM分類(第8版)に則して肺腺癌組織亜型およびSTASを含有する症例の検討を今までの症例(2cm以下、リンパ節転移なし)に加えて、①リンパ節転移症例、②腫瘍径2cm以上の症例に集積範囲を拡げて抽出し、臨床病理学的検討を行った。第8版TNM分類においても小型肺腺癌に対して縮小手術が行われた際、STASが有意な再発因子であることが証明され、その結果を呼吸器外科学会にて報告した。また、基礎実験では①肺癌、②他癌肺転移、③胸腺腫などの検体を集積し、手術検体を用いて組織毎に蛍光プローブの蛍光強度の測定を行い、術中迅速診断に適した癌特異的蛍光プローブの選定を行った。先行研究(日野ら, Transl Oncol, 2016)では蛍光プローブgGlu-HMRGを用いて肺腺癌細胞株(A549、H441)の蛍光画像から癌細胞を認識可能であることを証明した。また、肺癌手術検体(73例)にgGlu-HMRGを適用した結果、診断率は感度43.8%(32/73)、特異度84.9%(62/73)であり、腺癌、女性、非喫煙者に有意に反応することが明らかとなった。この成果を元に本研究では手術検体(57症例)を用いて、病理学的診断により組織型を同定し、予め作成したpeptide-HMRG、peptide-2Me-SiRなど多数の蛍光プローブを用いて正常肺と腫瘍との蛍光上昇値の違いを検討した。特に肺腺癌(25症例)の蛍光上昇に着目した。ライセートスクリーニング結果をもとに選定したプローブ(30種類)の中で3種類の蛍光プローブが平均AUC:0.83 (0.815-0.84)であり、識別能力が良好であることが証明された。これらの癌特異的蛍光プローブは先行研究で用いたgGlu-HMRGよりも有用であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は組織型による各種蛍光プローブの蛍光上昇の違いに関して検討可能であったが、STASや組織亜型の蛍光局在の解明および術中検出法を確立するまでには至らなかった。 今後の研究の推進方策であるが、以下の5点である。①手術によって採取した組織検体のライセートを用いた蛍光プローブのスクリーニング ②組織検体への反応性が高い蛍光プローブのDiced Electrophoresis Gel (DEG)アッセイによる酵素同定 ③組織検体への蛍光プローブの直接散布と蛍光画像の分析・蓄積 ④術中迅速診断に耐えうる蛍光プローブの同定。また、組織型にとらわれず、肺腫瘍部分切除検体の切離断端の癌細胞の遺残の描出をすることで、肺癌の再発の基点の詳細を解明していくことも目標とする。呼吸器外科領域腫瘍の診断・治療成績改善を目指して、基礎実験を継続していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は臨床データの集積・解析、手術検体採取が中心となり、実質的な基礎研究は翌年以降の比重が重いため。
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