研究課題
LRIG1 というEGFR に結合する膜貫通タンパク質に、EGFR の発現・リン酸化を抑制する効果があることが報告され、脳腫瘍の分野では野生型EGFR よりも変異型EGFR に対する抑制効果の方が強いと報告されている。しかし、最も変異型EGFRと関係が深い肺癌の分野ではLRIG1 の有用性に関する報告は無く、その役割も不明である。本研究はEGFR に結合し抑制性に働く膜貫通蛋白であるLRIG1 に着目し、EGFR 変異陽性肺癌における同蛋白の抗腫瘍効果を検討し、当該疾患に対する新規治療法の確立を目指すものであった。令和2年度は、平成30年度に樹立したEGFR遺伝子変異を有するLRIG1安定発現肺癌細胞株およびEGFR遺伝子変異を有しないLRIG1安定発現肺癌細胞株に加えて、当科で樹立したEGFRチロシンキナーゼ阻害剤耐性肺癌細胞株を用いてLRIG1安定発現細胞株の作製を試みたが、細胞株の樹立には至らなかった。研究期間全体を通じては、HCC827 (EGFR exon 19欠失)・HCC4011 (EGFR L858R) ・H1975 (EGFR L858RおよびT790M) というEGFR遺伝子変異を有する肺癌細胞株を用いてLRIG1安定発現細胞株を樹立し、EGFR遺伝子変異を有しない肺癌細胞株 (A549) を用いたLRIG1安定発現細胞株も含めてEGFRの発現や細胞増殖について検討を行った結果、EGFR遺伝子変異を有する肺癌細胞株においては、LRIG1により変異EGFRタンパクおよびリン酸化の発現が抑制し、細胞増殖も抑制されたが、EGFR遺伝子変異を有しない肺癌細胞株においてはEGFR蛋白発現の変化に乏しく、細胞増殖も抑制されなかったことをin vitro, in vivoで証明した。この成果はCarcinogenesis誌に掲載された。