本研究の目的は、癌細胞の免疫回避機構と治療抵抗性に密接に関連する”播種性腫瘍細胞と腫瘍休眠”という、転移初期相における重要なメカニズムを解明することである。播種性腫瘍細胞由来エクソソームを媒体とした細胞間相互作用が転移促進因子になるという仮説を検証した。まず肺癌細胞株を用いた研究を行った。7種類の肺癌細胞株を用いてMTSアッセイを行い、腫瘍増殖能を調べ、さらに腫瘍休眠関連因子(ERK、p38、uPAR)発現及び上皮間葉系転換マーカー発現を調べた。腫瘍休眠関連因子蛋白発現と上皮間葉系転換発現に強い相関を認めた。さらに肺癌患者を無再発、早期再発、晩期再発群に分類し、各患者群の腫瘍組織、腫瘍外植片由来エクソソームを用いて、各種蛋白遺伝子発現解析を行った。晩期再発群では腫瘍休眠関連因子、p38経路発現低下、ERK経路活性化、上皮間葉系転換における間葉系マーカー高発現、細胞周期G0/1相増加を認めた。晩期再発群由来エクソソームと上皮系肺癌細胞株の共培養によって、受容細胞における間葉系極性変化、細胞周期G0/1相細胞増加、癌抑制遺伝子かつ腫瘍休眠に関与するmiR-23b/190発現低下、細胞傷害性抗癌剤感受性低下を認めた。腫瘍休眠群は病理学的脈管浸潤とで相関性が高く、脈管浸潤・術後再発の有無で早期肺癌症例を3群に分類し、血清由来エクソソームを用いてsmall RNAシーケンス解析を行ったところ、miR-23b/190aは脈管浸潤・再発群で有意に低値であった。
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