本研究の目的は、神経損傷初期から慢性痛成立までの脊髄可塑性変化において、抑制性神経回路の変性とその果たす役割を、主に下行性抑制系に注目して解明することである。疼痛制御に関与するとされる下行性抑制系に注目し、下行性抑制系をコントロールした際の脊髄後角神経活動を解析するために、起始核である青斑核ノルアドレナリン(NA)ニューロンのみを特異的に制御可能なラットを薬理遺伝学的手法を用いて作成した。青斑核NAニューロンのみを人為的に操作する手法を確立した。最終年度には、NAニューロンを活性化させた場合の疼痛行動を行動学的・電気生理学的に解析した。 結果:成熟Wistar系ラットを用いた。神経障害性痛モデル動物(CCI;坐骨神経結紮モデル)とコントロール動物とで、in vivoパッチクランプ法を用い、神経損傷後からの抑制性シナプス伝達を記録し比較した。その結果、抑制性シナプス電流の頻度は神経損傷初期には一時的に増加したが、神経損傷から1か月後には劇的に振幅が減少していた。薬理遺伝学的手法により、青斑核NAニューロンのみを特異的に活性化可能なラットを作成し、CNO投与によって青斑核ニューロンが活性化されることを確認した。このラットを用いて青斑核NAニューロンの疼痛閾値に与える役割を解析した。その結果CNO投与による人為的なNAニューロン活性化により一部の動物では疼痛閾値が上昇した。しかし、少数の動物においては変化が確認できなかった。 青斑核ニューロンには投射先により鎮痛に対する機能が異なることが示唆されている。実際、大半の動物ではNAニューロン活性化により鎮痛作用がもたらされたが、一方で異なる働きをもつ青斑核NAニューロン群も存在することが示唆された。
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