研究課題/領域番号 |
18K08818
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
横山 正尚 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (20158380)
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研究分担者 |
河野 崇 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 准教授 (40380076)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経障害性痛 / 脳由来神経栄養因子 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、神経障害性痛の病態機序における脳由来神経栄養因子 (BDNF) の役割について、より高位中枢の海馬に焦点を当て、モデル動物におけるその発現変化と各種行動評価 (疼痛、抑うつ、認知機能) との関連性の詳細を調査することを目的とする。疼痛モデルとして、右側L5-6脊髄神経を6-0絹糸で結紮・切断することにより作製する脊髄神経切断 (SNL) モデルを用いた。神経障害性痛の病態機序における海馬BDNFの関与を明らかとするために、SNL手術2、5、7、14日後に海馬を摘出し、BDNF の発現変化をmRNA レベル (RT-PCR法)、蛋白レベル (ELISA法)で測定した。その結果、正常群と比較して、SNLラットの海馬BDNFは手術7日目より有意に低下した。海馬BDNFの低下は、SNL手術後の痛覚過敏様行動の発生頻度と有意な相関関係が認められた。また、BDNFの生合成過程の影響を検討するため、成熟型BDNFに加え、うつ病患者で増加することが知られている前駆体型のpro-BDNFの測定も行い、成熟型BDNFと同様の結果が得られた。さらに、神経障害性痛における海馬BDNFの特異性を検討するために、他の疼痛関連部位 (前頭前野、脳幹、扁桃体) での変化を検討した。しかし、前頭前野、脳幹、扁桃体では海馬で生じたSNL手術後のBDNF低下は生じなかった。BDNFは海馬でのシナプス伝達の可塑性発現に関与し、学習や記憶の形成に関わる。また、海馬BDNFの低下は、うつ病と関連することが知られている。これらの現象は、海馬BDNFのダウンレギュレーション (脊髄とは逆) が神経障害性痛の病態機序に関連すると同時に、併発する抑うつ、認知機能障害に関与することが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳由来神経栄養因子 (BDNF) は、海馬でも興奮性作用も示されていることから、海馬の侵害シグナルへの関与が推測される。しかし、神経障害性痛モデルで海馬BDNF蛋白量を検討した今回の研究結果では、海馬BDNF濃度と痛覚過敏様行動に有意な逆相関関係 (痛みが強いほどBDNF濃度が低い) が認められた。BDNFは海馬でのシナプス伝達の可塑性発現に関与し、学習や記憶の形成に関わる。また、海馬BDNFの低下は、うつ病と関連することが知られている。これらの現象は、海馬BDNFのダウンレギュレーション (他の神経部位とは逆) が神経障害性痛の病態機序に関連すると同時に、併発する抑うつ、認知機能障害に関与することが推測される。また、海馬はBDNFが最も豊富に存在する部位で、血液中に僅かに検出されるBDNF濃度は海馬BDNF濃度と相関することが知られている。今回の結果をより詳細に検証することにより、慢性痛の客観的なバイオマーカーの開発や患者のQOL改善に直結する新規治療法への応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえ、海馬BDNF濃度変化と疼痛・うつ・認知行動試験の相関解析を行う。海馬BDNFは、神経障害性痛時の疼痛のみならず、抑うつ、認知機能においても関連すると考えられる。予備実験においても、神経障害性痛ラットでは、疼痛行動以外にうつ様行動、認知機能障害を生じることを確認している。SNL手術2週間後のこれらの行動異常の程度 (疼痛: von Frey試験の逃避行動閾値、pin試験の痛覚過敏様行動の発生頻度、うつ様行動: ショ糖嗜好試験のショ糖嗜好性、認知機能: 新奇物体認識試験の新奇物体への嗜好性をそれぞれ指標とする) とその時点における海馬BDNFの発現変化との相関関係を解析することにより、海馬BDNF変化の神経障害性痛ラットの病態への関与を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫組織試験による前駆体型pro-BDNFの発現変化の評価に使用するための抗体を購入予定であったが、国内在庫がなく海外からの輸入を待つ必要が生じたために次年度使用額が発生した。この金額は次年度初期に予定どおりの抗体購入のために使用する予定である。
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