研究実績の概要 |
今年度の研究は、全身麻酔薬の鎮静作用の分子基盤、特に脳内のGABA濃度変動による麻酔効果のばらつきの解析(麻酔薬力学)、麻酔薬による発達期の脳へ毒性 作用に焦点を当てて研究することである。これまでの我々の 研究成果から、全身麻酔薬の鎮静作用の発現には、抑制系GABA受容体の関与が強く示され、特に細 胞外(シナプス領域外)のGABA濃度の変化が重要であることを基礎研究として公表してきた(Neurophamacol, 2011)。一連の研究結果から、全身麻酔薬はGABA受 容体のアロステリック修飾薬として働くことで鎮静作用を発揮するが、痛みやストレスなど様々な要因によって脳内のGABA濃度が変動することがあり、これに よって麻酔効果のばらつきが起こると考えられる。 鎮静効果が得られるまでの麻酔必要量のばらつきは、特にプロポフォール麻酔において顕著である。 このような麻酔効果のばらつきは、慢性的な痛みを有する患者、特に脳内の興奮と抑制のバランスが崩れている患者で顕著になると考えられる。痛みが持続した患者、あるいは女性では生理痛が持続した場合など、さらに女性患者においては月経サイクルによって影響を受け、そのサイクルによってプロポフォール麻酔の必要量が2-3倍まで変化する事が判明した。これらの結果から、月経サイクルが脳内GABA濃度を変化させている可能性が示唆される。また実験動物においては、海馬で記録されるシナプス可塑性も脳内GABA濃度による影響を受ける事が分かった。痛みや不安レベルなどいろいろな要因で、GABA濃度が変動することで麻酔効果が変化する可能性が示唆され た。
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