研究課題/領域番号 |
18K08821
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
徐 民恵 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (60381886)
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研究分担者 |
杉浦 健之 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (20295611)
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 准教授 (80369173)
祖父江 和哉 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (90264738)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 前頭前皮質 |
研究実績の概要 |
慢性疼痛の発症には、情動に影響を与える脳回路も関与しており、前頭前皮質(mPFC)は、情動を生み出す神経回路の一部であり、うつなどの気分障害の発症に一部関与していることが示唆されている。δオピオイド受容体は体性感覚と情動の調節の両者に対して影響を及ぼしており、その疼痛緩和作用機序に情動面の調節が関与している可能性もある。そこで、mPFCの機能を調節する化合物として、新規δオピオイド受容体作動薬であるKNT-129を用いて検討を行った。 神経障害性疼痛モデルマウスとして、Spared Nerve Injury(SNI)マウスを使用し、機械刺激による痛み閾値測定法としてvon Frey法を用いた。KNT-129を脳室内に処置すると、用量依存的な神経障害性疼痛緩和作用が認められた。 次に、δオピオイド受容体による情動面の調節に関与していると報告されているinfralimbic cortex(IL cortex)を対象に、KNT-127を微量注入し、神経障害性疼痛に対する影響を検討した。SNI処置により低下した痛み閾値がKNT-127の微量注入では、有意な影響は認められなかった。そこで、情動に対してより強い影響を与えている脳領域のInsular cortexへ変更し、KNT-127を微量注入しSNIマウスの痛み閾値がKNT-127によって濃度依存的に改善した。また、興奮性神経伝達物質(glutamate)と抑制性神経伝達物質(muscimol)を微量注入したところ、健常動物の痛み閾値がglutamateの微量注入により低下し、神経障害性疼痛モデルマウスの痛み閾値がmuscimolの微量注入により改善することが明らかになった。 これらの結果から、Insular cortexにおける神経細胞の活性または抑制が、慢性疼痛の痛み閾値に影響を与える可能性があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
IL cortexは領域が限られており、IL cortexへの微量注入の確実性を高めた実験技術の習得が遅れ、さらに効果の不確実さから、対象部位を変えたことにより、予想以上に時間を費やした。また、SNI処置による、mPFC領域の神経系細胞の活動性変化を検討するためc-Fosタンパク質の免疫組織化学的解析を試みたが、SNI処置以外のストレスが無い状態で動物サンプルを採取する必要があり、その条件確率に時間を予想以上に費やした。
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今後の研究の推進方策 |
痛み以外のさまざまな刺激による影響が無い状態で、SNIマウスのmPFC領域の変化を解析するために、Caイメージング法を用いて検討を行う。これは、SNIマウスのmPFC領域にCaイメージング用レンズを埋め込むことで、自由行動時の神経細胞活動を撮影することができるため、慢性疼痛とmPFC領域の関連をリアルタイムで記録することができる。また、mPFC領域の神経が投射する領域(側坐核等)にGRINレンズを埋め込み、mPFC領域にglutamateやmuscimolを微量注入することにより、mPFC領域の活性化や抑制による影響を、その神経投射領域、慢性疼痛の関連をリアルタイムで記録でき、新たな現象の解明につながる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
SNIマウスのmPFC領域の変化を解析するために、Caイメージング法を用いて検討を行う。mPFC領域の神経が投射する領域(側坐核等)にGRINレンズを埋め込み、mPFC領域の活性化や抑制による影響を、その神経投射領域、慢性疼痛の関連をリアルタイムで記録するため、Caイメージング用レンズの購入費用が必要である。 その他、神経障害モデルマウスの作成、免疫組織化学的解析などに必要な試薬、器具の購入費用が必要である。
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