研究実績の概要 |
心臓外科手術時に経験される希釈性凝固障害に対しては、新鮮凍結血漿の投与では生体のトロンビン生成を十分に改善することが難しい。我々は、凝固カスケード上で主要な凝固因子を少量で組み合わせる事で、不必要な酵素誘導に起因した血栓性合併症を低下させるアプローチが期待できると仮説した。 2種類の凝固因子から構成された混合濃縮製剤、第7因子・第10因子複合体製剤 (FVII/FX Mixture: 混合比 1:10)を用いて希釈性凝固障害における止血効果について多面的に評価した。健常ボランティアから得られた乏血小板血漿を用いて、50%血液希釈モデルを作成した。血友病患者における遺伝子組み換え活性型第VII因子 (rFVIIa)、およびFVIIa/FXの臨床使用濃度は、それぞれ、2.1-6.4μg/ml、1.4-2.8μg/ml程度である。作成した血液希釈モデルに対してrFVIIa (1.4, 2.8, 6.4 μg/ml) 、FVIIa/FX (0.35, 0.7, 1.4 μg/ml) を添加した治療モデルを作成した。rFVIIaは各濃度においてトロンビン生成試験の潜時を有意に短縮させ、またトロンビン生成量のピーク値を増加させた。一方で、FVIIa/FX の0.35μg/mlは、rFVIIa 6.4μg/mlに比較して、潜時を有意に短縮させ、かつピーク値も増加させた。トロンボエラストメトリーでは、FVIIa/FX 0.35μg/mlは、rFVIIa 6.4μg/mlと比較して潜時を有意に短縮させた。FVIIa/FXは用量依存性にトロンボエラストメトリーの潜時が短くなる傾向を示した。 血液希釈下において十分なFXが存在することで効率的なFVIIによるトロンビン生成が可能であった。
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