研究課題/領域番号 |
18K08828
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
森山 潔 杏林大学, 医学部, 准教授 (10296717)
|
研究分担者 |
本保 晃 杏林大学, 医学部, 助教 (10625578)
萬 知子 杏林大学, 医学部, 教授 (40210801)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 無呼吸酸素化 / 経鼻高流量酸素療法 / 高機能患者シミュレータ |
研究実績の概要 |
【緒言】無呼吸酸素化とは無呼吸時に酸素投与を行うことで、低酸素になるまでの時間を延長させるという概念で、近年経鼻高流量酸素療法の普及に伴い、実臨床での報告も増加している。迅速導入は前酸素化のみで気管挿管を行うため低酸素の危険性を伴う。そこで、迅速導入の際に高流量経鼻酸素療法を用いることで低酸素になるまでの時間をさらに延長できると仮説を立て、高機能患者シミュレータを用いた検討した。 【方法】経鼻酸素投与器具は経鼻高流量療法(HFNC: High Flow Nasal Cannula)、従来型経鼻カニュラを使用した。設定流量は①HFNC 30L/min, ②60L/min, ③カニュラ6L/minとし、比較に④酸素投与無しの計4群を検証した。高機能患者シミュレータの正常成人モデルを用いて、5分間の大気吸入後、各酸素器具を装着し、空気(FIO2 0.21)を投与開始。3分後、ロクロニウム1.2mg/kgを投与後5分間観察しSpO290%未満になるまでの時間を記録した。実験は各5回ずつ施行した。統計解析は一元配置分散分析、post hoc testとしてBonferroni検定(有意水準p<0.05)を用いた。 【結果】低酸素までの時間(平均値±標準偏差)は、①122±5秒、②140±4秒、③111±3秒、④109±3秒であった。各群の比較では④と比較し①、②が有意に延長した。また②は①よりも有意に延長した。 【考察】過去の文献では経鼻カニュラ15L/分で有意な酸素化延長効果を認めているが、経鼻カニュラの推奨流量は6L/分以下であり短時間とはいえ鼻出血などの危険性を伴う。HFNCは十分に加温加湿された最大60L/分の酸素投与が可能で、今研究でも流量増加に伴い酸素化維持時間が有意に延長し、無呼吸酸素化に有用と考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高機能患者シミュレータを用いた研究の結果より、HFNCが無呼吸酸素化、すなわち無呼吸状態での酸素化延長効果を持つことが明らかとなったが、これが換気補助効果に基づくかは明らかでない。HFNCの換気補助効果を検証するためには、無呼吸状態での肺胞換気量を検証する必要があり、これは臨床データでは困難なため、引き続き高機能患者シミュレータでの検証が必要となる。これまでの結果からHFNCが死腔洗い出し効果を持つことは明らかであるが、これを算出することは出来ていない。解剖学的死腔量を算出し、肺胞換気量を導き出すことで、HFNCの換気効果を検証できる可能性がある。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続いての高機能患者シミュレータを用いた研究は、HFNCの換気補助効果に焦点を当てる。我々はHFNCが流速依存性に肺胞換気を促進するとの仮説を建て、異なった流速(毎分30, 40, 60L)での酸素化延長効果を検証するとともに、異なった流速での解剖学的死腔の洗い出し量を算出する。これらの結果から及び肺胞換気量を導き出すことで、HFNCの肺胞換気効果を検証したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
臨床研究の前段階として、可能な限り高機能シミュレーターでのデータを収集している。研究は順調に進んでいるが、試薬代などが予定よりも少なく済んだため、未使用額が生じた。新たな疑問が生じ、シミュレーターの追加実験を続けており、今後臨床研究を進めていく段階で新たな試薬代、解析代に充てる予定である。
|