我々は、老化や認知症患者に対する手術侵襲が中枢神経へ与える影響を老化促進マウスであるsenescence-accelerated mice (SAM)を用いて検討してきた。 2018年度は、20週令の老化促進と学習、記憶障害を呈する老化促進マウスsenescence-accelerated prone mice 8(SAMP8)と、老化促進を示さないsenescenceaccelerated mice resistant 1(SAMR1)を用いてランダムに全身麻酔下に脛骨骨折手術を行う手術群、麻酔のみ行う麻酔群、手術や麻酔を行わないコントロール群に割り付け、手術後に血漿と海馬を採取し、ELISA法によるIL-6サイトカイン測定を行った。この実験でSAMP8では麻酔群、手術群で海馬、血漿のIL-6の上昇を認め、SAMP8においては、麻酔単独でも神経炎症を惹起しうることが推察された。 2019年度は、行動学実験の準備と実験を行った。行動学実験には恐怖条件付け試験(fear conditioning test)を用いた。SAMP8はSAMR1に比較してコントロール群での%freezingの低下があり、元の記憶力低下が示された。SAMR1においては、麻酔群、手術群で有意差はないものの%freezingの低下傾向が認められたが、SAMP8においては、麻酔群、手術群での%freezingの低下は認められず、記憶力の低下を行動学で示すことができなかった。 2020年度は、行動学試験の条件を変えた上での追加実験を行った。手術介入の代わりに手術侵襲で末梢組織から放出されるとされるDAMPsHMGB1を腹腔内投与したり、trainingプロトコルの電気刺激回数の変更、マウス の週令の変更などを行なったが、いずれにおいてもSAMP8での記憶力低下を行動学試験で示すことができなかった。
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