研究課題/領域番号 |
18K08849
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
倉田 二郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (50349768)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 機能的磁気共鳴画像法 / 拡散強調画像法 / Voxel-based morphometry / オフセット鎮痛 / 下行性疼痛修飾系 / 報酬系 / 慢性疼痛 / 機能的結合性 |
研究実績の概要 |
慢性疼痛患者22人と健康被験者17人に対して、オフセット鎮痛の機能MRI(fMRI)を含むマルチモーダルMRIを施行し、各種心理物理指標と関連付ける画像解析を行った。 熱痛み刺激時に陰性賦活(deactivation)を呈する脳領域を特定し、これをグループ間解析した。健康被験者では右前島皮質、右背外側前頭前皮質が賦活したが慢性疼痛患者では陰性賦活を呈した。背外側前頭前皮質の陰性賦活の程度は、痛み破局化スコアが高い程大きかった。慢性疼痛患者では、これらの領域の疼痛修飾機能が低下していることが示唆された(日本麻酔科学会第66回学術集会優秀演題口演)。 安静時fMRIデータを使用し、脳全体の116個の関心領域間の機能的結合性を網羅的に解析しグループ間比較した。小脳虫部と大脳右半球の感覚運動系、辺縁系、側頭葉との機能的結合性が慢性疼痛患者で増大し、PainDETECTスコアとの相関を呈した。慢性疼痛においては、小脳ー大脳間のネットワーク機能が変容することが示唆された(日本ペインクリニック学会第53回大会)。 オフセット鎮痛時の脳活動に注目してfMRIデータを解析した。慢性疼痛患者は健康被験者に比べ、後帯状皮質に強い陰性賦活を呈した。後帯状皮質はデフォルトモードネットワークの要であり、この機能不全が慢性痛におけるオフセット鎮痛の低下に関連する可能性が示唆された(第42回日本神経科学大会)。 慢性疼痛における脳白質変化を調べるため、拡散強調画像を用いてtract-based spatial statisticsにより白質機能関連パラメータを群間比較した。慢性痛患者では脳梁、放線冠、右外包・内包、右上縦束など広汎な領域でfractional anisotropyが低下していた。慢性痛における半球間抑制及び下行性疼痛修飾の低下が示唆された(Anesthesiology 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究により、慢性疼痛患者におけるオフセット鎮痛とマルチモーダルMRI画像(計39人)、および、慢性腰痛患者における腰痛関連fMRI画像(計32人) と多くの脳画像データを蓄積することができたため、これらの解析を継続し本研究を推進することが出来た。 一方、本年度は東京慈恵会医科大学への異動に伴い脳画像研究ラボ全体の引越、大学院生の転学手続き、倫理委員会への臨床研究申請、新規MRIスキャナー使用のためのセットアップなどを行ったため、研究活動の一時中断を余儀なくされた。 また、浜松医科大学との共同研究開始にあたり、PET研究状況の確認と共に改めて研究計画を練り直して倫理委員会申請を再開したため、PET/MRI研究の開始が遅れた。2019年度中に予定していた最初の予備実験は、2020年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に進めたマルチモーダルMRIの多角的解析結果を、査読のある英文国際誌に投稿する。 ミクログリアPETとマルチモーダルMRIの研究計画が東京慈恵会医科大学倫理委員会で承認されたため、浜松医科大学での承認手続きを早急に行い、今年度中に6例を目標にパイロット研究を開始する。 従来のマルチモーダルMRIの研究計画を多施設共同研究に変更して承認された。これを東京医科歯科大学、福島県立医科大学、浜松医科大学、京都大学との共同研究として、合計240例の慢性疼痛患者および健康被験者をリクルートして行動学的及び脳画像データを蓄積する。このように症例数を飛躍的に増加させることで、疾患別データ解析、機械学習アルゴリズムの作成と検証を行うことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は東京慈恵会医科大学での研究計画承認およびMRIスキャナー使用のためのセットアップ、倫理委員会承認に一定の時間を要した。また、浜松医科大学での倫理委員会承認に至らず、PET研究を開始するのが2020年度に持ち越された。したがって、本来使用するはずの撮像費用や被験者謝礼などを使用しなかったため、次年度使用額が生じた。 2020年度は、PET/MRI撮像が本格的に始動するため、浜松医科大学での被験者リクルートを進め、科研費から撮像費用(PET:18万円/人、MRI:1万円/人)、研究者の旅費(東京ー浜松間)を支出する。また、経年劣化・故障により効率が低下した画像解析環境を改善するため、解析用PCを2台、数理解析ソフトウェアMatlabを2個購入予定である。
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