研究課題/領域番号 |
18K08856
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
安田 季道 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 助教 (20432718)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 悪性高熱症 / リアノジン受容体 / ジヒドロピリジン受容体 / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
悪性高熱症の原因の一つとして,リアノジン受容体の遺伝子変異が指摘されてきた. 近年,リアノジン受容体以外の遺伝子が悪性高熱症の原因となっている可能性が指摘されている.現在,標準的に行われている悪性高熱症の機能解析の方法では,リアノジン受容体の遺伝子変異の機能解析は可能であるが,他の遺伝子の機能解析を行なうことはできない.今回の研究ではリアノジン受容体以外から発見された遺伝子変異が悪性高熱症の原因であるか否かを確認するための新たな実験系を作成し,それらの機能解析を行っていくことを目的としている.われわれはジヒドロピリジン受容体(CACNA1S)に新規の遺伝子変異(Ala560Thr)を見つけることに成功したので,この遺伝子変異が悪性高熱症の原因となるかを確認するための実験として, C2C12というマウス筋芽細胞由来の細胞株にゲノム編集により遺伝子変異を導入することからはじめた.まずはノックインよりも比較的容易であると考えられるCACNA1Sのノックアウト細胞を作製することにした.しかし,ノックアウト細胞の作製時のノックアウトが成功している細胞を選択する過程が非常に難しく,結局ノックアウト細胞を選択し回収することができなかった.比較的容易といわれているノックアウト細胞の作製ができなかったことで方法論の修正が必要であると考えられた.ノックインの導入効率に関しては細胞株に対してよりもマウスに対してのほうが高いことが知られている.われわれの今までの実験手法から細胞株を使用した実験のほうが都合がよいという理由から細胞株を使用した実験をはじめたが,細胞株ではなくマウスへのノックインを行っていく必要性があると考えられた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず,初年度はマウス筋芽細胞の細胞株であるC2C12を使用してCACNA1Sのノックアウトを作成することを目的として実験を行った.C2C12を購入後培養し,筋管細胞に分化させることには成功した.分化させていないC2C12 細胞ではリアノジン受容体のアゴニストであるカフェインにより生じる細胞内カルシウムの変動が確認できなかったが,筋管細胞に分化した細胞では細胞内カルシウムの変動を確認することができるようになり,リアノジン受容体及びその近傍に存在するカルシウム調節機構が分化とともに発現していることが推察された.次に,ゲノム編集技術を用いてまずノックインよりは容易であるとされているCACNA1Sのノックアウトを作成することにした.プライマーを設計し,CAS9タンパクとともに細胞内に導入したが,その後の細胞の選択及び確認実験がうまくいかず,CACNA1Sのノックアウト細胞はできなかった. 新規の原因遺伝子の探索に関してはエクソームシークエンスの結果から候補遺伝子を絞り込んでいる状況である.まだ,生体での確認実験を行う段階ではないので引き続き,解析を行っていきたい.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度はCACNA1Sのノックアウト細胞を細胞株であるC2C12で作成することを目的に実験を行ってきたが,うまく行かなかった.このためこれから実験を推進していくにあたって方向を変えていく必要があると考えている.ゲノム編集についてはマウスにおけるノックインの導入効率が細胞株へのノックイン効率よりもかなり高いことが知られている.それ故,これからCACNA1Sあるいはそれ以外の新規の原因遺伝子の候補にノックインを導入する際にはマウスを使用した実験のほうが良いのではないかと指摘された.今年度は,悪性高熱症の新規原因遺伝子を継続的に検索していきながら,ノックインマウスを作成するためのシステムづくりを行っていく予定である.ジヒドロピリジン受容体の遺伝子変異であるAla560Thrの導入を当面の目標とするが,新規の原因遺伝子の候補が確認された場合はそちらのノックインマウスの作成を先に検討していく可能性がある.当初考えていた細胞株を使用した実験系ではなくノックインマウスを作成していくのが本当に効率が良いのかをよく考慮した上で進行していかなくてはならない.
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度施行していた細胞株からノックアウト細胞を作成する実験において,実験が予定通り遂行できなかった.その理由として,細胞株にゲノム編集を行うこと自体が難しいことがあげられた.また,細胞株でゲノム編集を行ってノックインを作成できたとしても,ノックインマウスを用いた実験での再現性を問われる可能性およびゲノム編集によるノックインマウスの作成は細胞株へのノックインよりも確立された方法であることなども指摘された. これらのことから,ノックイン細胞をどのような細胞を使用して樹立させていくのかもう一度検討する必要性に迫られたため,昨年度途中から細胞株での実験は一旦休止している.ノックインマウスを作成する実験系を確立することがより良いと思われるので,そのようにできる体制を整えていきたい.まず,遺伝子組み換え実験計画書の再提出及び動物実験計画書の提出を行い,承認を得る.そののちにマウスのノックインを作製していく.マウスでのノックインの作製は1つの遺伝子変異を作成するのにかかる費用が細胞株での実験に比較して高価になると思われるので,次年度使用額を有効に活用して実験を行っていきたい.
|