研究課題
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) USA300株の細胞壁ペプチドグリカン合成系に関与する輸送系膜タンパク質MurJについて5か所、膜タイコ酸合成系LtaAについて2か所、細胞壁タイコ酸合成系TarGについて2か所、それぞれ細胞外領域をエピトープとして定めてモノクローナル抗体作製を行った。各抗原ペプチドにつきハイブリドーマを1または2クローンずつヌードマウスで腹水化し、IgGの精製を行い、異なるキャリアタンパク質を用い抗原ペプチドへ対する特異性の確認を行った。現時点まで11種の抗体作製が完了した。これらの各抗体(0.2 mg/mL)を、MRSA増殖期の液体培地に添加し増殖阻害効果を評価した。しかし試した11種の抗体にはいずれも抑制効果が無いことが判明した。次に抗生物質試験で用いられる阻止円形成試験での評価を行った。MRSAを塗布した寒天培地上に抗体(2 mg/mL)を浸潤させたろ紙をのせ増殖抑制を調べたが、やはり11種のいずれの抗体にも抑制効果が全く無いことが再確認された。菌密度上昇に伴う毒素遺伝子発現を制御するクオラムセンシング系では、現時点までにAgrBが2か所、AgrCが3か所、計6種の抗体作製が完了した。これらの各抗体(0.2 mg/mL)を菌の培養開始時に添加し、引き続き5時間培養して菌体を溶解し、リアルタイムPCRによって毒素遺伝子(α-毒素遺伝子hlaやロイコシディンluk Sなど)の発現量を調べた。しかし試した6種の抗体にはいずれのAgr制御の毒素遺伝子発現に対して全く抑制作用が見られなかった。抗体の作製とin vitroでの抗菌評価と並行し、マウス感染実験を条件検討を進め、肺炎ならびに敗血症での条件を定めた。
3: やや遅れている
所属している診療科の若手ドクター数名の研究指導ならびに本研究と並行して進めている研究課題[ポドプラニンに依存したガンの転移や血栓症を抑制する新規化合物 (AMEDシーズA、A369TS)]にエフォートを割いたため。
現在作製途上の抗体としてTarGが4種、LtaAが1種、AgrBが2種、AgrCが1種ある。これらの抗体の完成を急ぎ、in vitroでの抗菌活性評価を行う。また、細胞壁合成系、毒素発現系とも新たなタンパク質を定め抗体作製を続けていく予定である。また、標的部位を遺伝子組み換えにより膜タンパク質として発現させ、より天然の高次構造に近い抗原を利用することも検討したいとも考えている。また、複数の抗体をカクテルとしてin vitroならびにマウスモデルでのの抗菌活性評価も行っていく予定である。
本課題については、当初の計画より進捗が遅れたため、次年度使用額が生じた。繰り越した助成金は次年度の抗体作製ならびにマウス感染症実験に使用する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancer Cell International
巻: 20 ページ: 263
10.1186/s12935-020-01328-2