手術後を受けた患者において、創部の慢性疼痛を発症する頻度は、とくに開胸手術、乳房手術、整形外科手術、開腹手術などで高いことが知られている。この慢性疼痛は遷延性術後痛と呼ばれ、適切な予防法や治療法の開発が求められている。そこで本研究では、術前の慢性疼痛合併の有無、および周術期の炎症反応と侵害受容刺激反応を調査することにより、遷延痛術後痛の発症を予測するバイオマーカーを明らかにし、臨床で簡便に遷延痛術後痛の発症を予測できる方法を開発することが目的である。具体的には、術前因子として、心理状態、痛み状態、血液検査などのデータを収集し、術中因子として、侵害受容刺激反応、手術時間などのデータを収集する。術後は、心理状態および痛み状態を術後1年後までデータ収集する。対象患者は胸腔鏡下肺切除術を受ける患者で、遷延性術後痛の発症に関与する術前因子、術中因子の検討を行っている。遷延性術後痛の発症には、術前因子と術中因子と術後因子が関与することが既に知られているが、それぞれの因子間の関与も加わることが予想される。本研究の研究の中間解析では、術前の心理状態が術中の侵害受容刺激反応に関与する可能性が示唆された。また術前の心理状態が、遷延性術後痛の発症には関与しないが、遷延性術後痛における神経障害性疼痛の症状の発症に関与するという結果が得られている。これらの結果は新規な内容であり、引き続き症例数を増やしてデータ収集と解析を行う予定である。
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