手術後に創部の痛みが長期間続く遷延性術後痛は、その発症率が高いにも関わらず原因不明で、治療法も確立されていない。これまで術前の不安や手術侵襲が強い場合に遷延性術後痛の発症が多くなる可能性や、同じ手術侵襲でも遷延性術後痛の発症には個人差があることが報告されている。そこで本研究では、末梢血由来の痛み関連遺伝子のエピジェネティクスと、手術侵襲による全身麻酔下の侵害受容が、遷延性術後痛の発症にどのように関与しているか調査した。開胸術を受ける成人患者で、術前の末梢血中のTRPA1遺伝子におけるエピジェネティクスであるDNAメチル化率は、術前の神経障害性疼痛の指標のDouleur Neuropathique 4 (DN4)値と相関関係が認められたが、術後痛との関与は認められなかった。また術前の不安と手術侵襲による侵害受容と麻酔による抗侵害受容のバランスから生じる生体反応を表すと考えられるNociceptive response(NR)値に逆相関が認められた。今後は、術中NR値と術中および術後のエピジェネティクスの関係、および術後痛との関係を明らかにする予定である。
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