慢性疼痛の病態は複雑であり、その病態解明及び難治性慢性疼痛に対する新たな鎮痛薬開発を目指し、これまで多くの研究が進められてきたが、未だ有効な鎮痛薬は存在しない。電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)サブユニット、Nav1.9も慢性疼痛発生機序に重要な役割を持つことが示されているが、これに対する選択的阻害薬は未だ開発されていない。そこで、慢性疼痛に対する新たな鎮痛薬としての選択的Nav1.9阻害薬開発への貢献を目指し、Nav1.9の抑制機序に関する分子レベルでの解明を計画した。①電気生理学的手法(アフリカツメガエル卵母細胞発現系)を用いたNav1.9に対する鎮痛薬の影響解析、②電気生理学的手法と分子生物学的手法を用いた遺伝子変異型Nav1.9に対する影響解析と、Nav1.9のみを選択的に阻害するために重要な部位の同定、③Nav1.9遺伝子変異マウスと慢性疼痛モデルマウスによる鎮痛効果の解析、である。 申請者はこれまでに、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて神経系に発現する多くのNav αサブユニットの機能解析や薬物の作用解析を行ってきた。Nav1.9は再構築系の実験において、全てのαサブユニットの中で最も発現が困難である。Nav1.9の発現を得るため、様々な培養の条件を試みたが、薬物の影響を解析するために十分な発現量を得ることが出来なかった。そこで、新たな鎮痛薬や鎮痛法の開発に役立てることを目的とし、その他のαサブユニットを用いた実験を行い、これらに対する薬物の影響解析を行った。鎮咳薬として用いられているカルベタペンタン及びベンゾナテートのこれらαサブユニットに対する影響を調べたところ、これらの鎮咳薬がNav1.2、Nav1.3、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8機能を濃度依存性に抑制することを発見し、新たな鎮痛薬となり得る可能性が示された。
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