研究課題
細胞外シグナル伝達キナーゼ(ERK)はMAPKファミリーに属するセリン・スレオニンキナーゼである。MAPKのアイソフォームであるERK2とERK5は脊髄において疼痛シグナルの修飾に重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。しかしながら詳細なメカニズムは未だに不明な点が多い。本研究ではCre-loxPシステムを用いて中枢神経特異的に各アイソフォームを標的遺伝子欠損したマウスを作出し、各種疼痛モデルを作製して疼痛のシグナル伝達におけるERK2とERK5の役割を解析した。フォルマリンを足底に投与したところ、中枢神経特異的にERK2またはERK5を欠損したマウスではどちらも疼痛行動が野生型マウスに比べて減少した。さらにERK2及びERK5を同時に欠損したマウスでは疼痛行動が相加的に減少した。このことから、中枢神経におけるERK2とERK5は独立したメカニズムで炎症性疼痛のシグナル修飾に関わっていることが示された。また坐骨神経を結紮して神経障害性疼痛を作製したところ、中枢神経特異的にERK2を欠損したマウスでは野生型マウスに比較してアロディニア(触覚刺激によって痛みを感じる異常)の発現が抑制されていたが、中枢神経特異的にERK5を欠損したマウス及び末梢神経特異的にERK2またはERK5を欠損したマウスでは野生型と比較して有意な差は無かった。以上のことからERK2とERK5では痛みシグナルの制御において各々のアイソフォームに部位特異的な役割があり、痛みの種類や炎症、神経障害の状況などに応じて複雑に調節されていることが明らかになった。
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J Neurosci Res.
巻: 99 ページ: 1666-1688
10.1002/jnr.24827