研究課題/領域番号 |
18K08885
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
中島 芳樹 浜松医科大学, 医学部, 教授 (00252198)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血管内皮グリコカリックス / 熱中症性ショック / デクスメデトミジン / 水素ガス |
研究実績の概要 |
2018年度にラットを用いた熱中症モデルを作成し、研究を行った。熱中症の病態は敗血症性ショックの病態に極めて近いことが報告されている。そのことから我々は熱中症では血管内皮の傷害が起こり、臓器障害に至るものと考えた。 集中治療領域で患者の鎮静に用いられるデクスメデトミジン(DEX)は強い抗炎症効果をもち、敗血症性ラットモデルで腸管の微小循環系を保護することが知られている。熱中症性ショックの治療は現在のところ対症療法しかないため、我々は熱中症の治療法の探索の一つとしてこの薬剤に注目し、DEXの持続投与を行った。その結果、生存率は有意に改善し、また血管内皮グリコカリックス崩壊のマーカーであるシンデカン-1は有意に抑制された。この結果から我々はDEXが熱中症による血管内皮の損傷を抑制し、その結果生存率の改善につながったと結論した(Kobayashi K, Journal of Anesthesia 2018;32:880~885)。DEXはα2受容体作動薬であるが、α7ニコチン性アセチルコリン受容体を介して副交感神経を刺激し、抗炎症作用を表すことが報告されており、2019年度はDEXの血管内皮保護のメカニズムを明らかにするためにα7ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害薬としてα-ブンガロトキシンを用い、DEXの抗炎症効果のメカニズムを明らかにする研究を行った。また抗炎症効果を近年抗炎症作用及び臓器保護効果が知られている水素ガスの吸入を用いて血管内皮グリコカリックスへの影響を調べ、同様の効果がえられるかを検討した。 水素ガス吸入はラットの生存率をDEX同様改善し、効果的であることが示されたが、一方コントロール群としてのラットにα-ブンガロトキシンを用いたところ、長期生存がうまくいかなかったため適正な量を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱中症性ショックの水素ガス吸入の効果は検証できており、実際DEX同様の保護効果が示された(未発表データ)。しかし、ブンガロトキシンの投与でコントロール群のラットの生存率にばらつきが見られ、現在至適濃度を検討中である。2020年度早期に投与量を決定し、DEXの熱中症に対する保護のメカニズムを明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
熱中症は地球温暖化の観点から今後有効な治療法を見つけ出す必要に迫られている。DEXは熱中症性ショックに対して好ましい効果を持ち、そのメカニズムを明らかにすることで新たな有効な治療法の開発につながる。また同時に研究対象である水素ガス吸入も強い抗炎症効果から将来有望な治療法として位置付けられる可能性がある。熱中症性ショックの発症のメカニズムを血管内皮損傷とその保護の視点から明らかにして治療法に結びつけたい。新型コロナウイルスの流行で試薬が入手しづらくなっていることが多少懸念される。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末に研究の成果として海外の学会に参加する予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行で出席を断念したため
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