研究課題/領域番号 |
18K08886
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
細見 早苗 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (90644005)
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研究分担者 |
梅村 穣 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (20743561)
吉矢 和久 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (40379201)
嶋津 岳士 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (50196474)
小倉 裕司 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (70301265)
大西 光雄 大阪大学, 医学部附属病院, 講師 (70597830)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経炎症 / 高次脳機能障害 |
研究実績の概要 |
外傷患者の治療において合併症発生はしばしば重篤な転帰をもたらす。特に頭部外傷患者では感染症が合併(髄膜炎、肺炎)することで脳圧が亢進し、その治療に難渋する事が多い。骨髄由来抑制細胞(Myeloid-Derived Suppressor Cells: MDSCs)は免疫反応を抑制する作用をもつ骨髄由来の細胞であり、敗血症などの慢性期にMDSCsが獲得免疫を抑制し、感染合併症を生じやすくなりICU滞在日数が長期化することが報告されている。MDSCsは免疫分野で注目されている細胞であるが、免疫特権の臓器と呼ばれる中枢神経分野でのMDSCsの役割は十分に解明されていない。 本年度は、前臨床研究として、MDSCsの外傷後神経炎症に対する影響を組織学的・機能学的に評価した。頭部外傷マウスモデルを用いてMDSCsは外傷により破綻した血液脳関門を通過し、挫傷脳に浸潤していることが示し、また、MDSCsは頭部外傷後の亜急性期における神経炎症を抑制する役割を担うことを世界に先駆けて見出した。今後は臨床研究として、頭部外傷患者におけるMDSCsの経日的な変化と感染合併症の発生率を検討し、バイオマーカーおよび治療対象としてのMDSCsの役割を証明していく課程にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
損傷脳の免疫・ギムザ染色を用いた形態評価では、Gr-1+細胞が血腫および損傷側大脳皮質に局在し、これらの細胞は幼弱・成熟好中球や単球を含むheterogeneousな細胞集団であることが確かめられた。損傷大脳皮質のフローサイトメトリー解析では、CD11b+Gr-1+は、損傷後1日目をピークに減衰し、5日目にはsham群と有意差がなくなった。損傷脳から細胞分離したGr-1+細胞を、健常マウス脾臓から採取したCD4+細胞と共培養すると、細胞濃度勾配に従って、より強い増殖抑制効果が認められた。TSPO-PET画像は、損傷後1週目において、コントロール群では、損傷部位である大脳皮質に強いTSPO集積と、損傷側視床に弱い集積が認められた。Gr-1抗体投与群では、大脳皮質から視床にかけての広範囲なTSPO集積が認められた。損傷後6週目では、両群ともに、損傷した皮質は空洞を形成しており、TSPO集積は損傷側視床にのみ認められた。脳全体のTSPO集積を定量評価し両群を比較すると、コントロール群に比して、Gr-1抗体を投与したMDSCs除去群は、損傷後1週目は有意に高かった (p=0.03: 0.033±0.0064 vs 0.078±0.0121 ccm)が、6週目は有意差を認めなかった。 以上の結果が得られたので、英文論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、前臨床研究として良好な結果を得られたので、現在、臨床研究へと移行していく過程にある。 予備検査として、頭部外傷患者におけるMDSCの関与を検討した。ヒトにおけるMDSCのマーカーはCD11b+ CD14- CD33+と報告されている。脳挫傷を受傷した患者の末梢血液と健常人の末梢血液のMDSCの発現を比較した。健常人では認められなかったCD11b+ CD14- CD33+細胞が、脳挫傷患者の血液中には存在することがわかった。 つまり、頭部外傷患者の血液中でのMDSCsの存在することを証明しており、今後は、MDSCsの動向と感染合併症との関連を想定し、バイオマーカーおよび治療対象としてのMDSCsの役割をさらに検討していく予定である。
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