研究課題
外傷により脳が損傷されると、損傷部周囲には一連の炎症反応が生じ、続発性に組織損傷及び細胞死がもたらされる。神経細胞死を免れることができたとしても、神経軸索の損傷に より神経ネットワークの機能は失われ、運動機能や感覚機能の脱落症状となり、生涯にわたって後遺症が残る。血液脳関門の存在から、従来、免疫特権として考えられていた中枢神経 の免疫機構に関する研究はここ数年で大きく飛躍し、中枢神経のホメオスタシスに末梢由来 の免疫細胞が関与することが明らかになってきた。しかしながら、頭部外傷後の神経炎症に おける、末梢由来細胞の発現機序や作用機序などは充分に解明されていない。 骨髄由来抑制細胞(Myeloid-derived suppressor cells: MDSC)は炎症や担癌状態といった病的 な条件で腫瘍組織、 リンパ節、 末梢血に増加する未熟な骨髄細胞で、リンパ球やナチュラ ルキラー細胞、マクロファージを抑制する強力な免疫抑制活性を示す。我々は、頭部外傷に ともなう神経炎症反応の進行をいかに制御すべきかをテーマとして研究を進めた。そして、大脳皮質局所損傷モデルマウスを用いて、MDSCが挫傷脳に集積することを確認 した。つまり、CD11b+ /Gr-1+ 細胞が脳皮質の挫滅部に浸潤していることを、表現型マーカーとともに形態学的、機能学的に解析し、この細胞がMDSCsであることを確認した。また、局所的なTBIの後、浸潤したMDSCsが神経細胞の炎症を抑制し、ミクログリアなどの常在免疫細胞と相互作用することが示唆された。中枢神経系におけるMDSCの活性化、増殖、分化がどのように起こるかを理解することは、MDSCの免疫抑制機能の維持または調節に基づく将来の治療戦略の開発に役立つと考えられた。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件)
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