研究課題/領域番号 |
18K08895
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
関亦 正幸 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (80250190)
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研究分担者 |
関亦 明子 山形大学, 医学部, 准教授 (50321823)
伊関 憲 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (70332921)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非コードRNA / シス調節領域 / サイトカイン / 炎症 / ヘルパーT細胞 / サイレンサー / 転写制御 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
敗血症などの全身性炎症反応症候群は、過剰なサイトカイン産生で重症化する致死性の高い疾患である。しかし、どのような機構で免疫系が過剰な反応を示し、大量のサイトカインを一気に放出するのか詳細についてはよく分かっていない。そのため有効な治療法が確立していないのが現状である。本研究では、サイトカイン産生を適正に保つために、タンパク質の遺伝情報を持たない長鎖非コードRNA(lncRNA:long noncoding RNA)に着目し、このlncRNAによる遺伝子発現調節機能を利用した新たな炎症制御法の創成を目指している。そこで、気管支喘息重症化の原因サイトカインであるインターロイキン9(IL-9)に着目する。申請者らはこれまでの研究で、IL-9遺伝子の下流6 kbの非コードDNA領域にサイレンサーを同定し、このサイレンサーはIL-9遺伝子プロモーターに作用して転写を抑制できることを見出した。しかも、このサイレンサーからは、タンパク質情報をコードしないlncRNAが転写されていることを世界に先駆け突き止めた。IL-9サイレンサーの持つ転写抑制機能を、このlncRNAが担っている可能性がある。そこで本研究では、IL-9遺伝子座から転写されるlncRNA の実体解明を進めることで、lncRNAによるIL-9遺伝子発現調節機能を利用した新たな炎症制御法の創成を推進する。本年度は、ゲノムDNA上のどの領域からlncRNA が転写されるのか正確な転写開始点と転写終結点を決定する。更に、このlncRNAに結合するタンパク質を網羅的に同定し、lncRNA複合体によるIL-9転写抑制のメカニズムの解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイトカイン産生するヘルパー免疫Th細胞は、様々なサブセットに分化し特異的なサイトカインを産生することでその機能を発揮している。例えば、タイプ1ヘルパー免疫細胞(Th1)は、サイトカインとしてインターフェロンガンマ(IFN-g)を産生することでマクロファージや好中球を活性化して細胞性免疫反応に関与している。また、タイプ2細胞(Th2)は、インターロイキン4(IL-4)を産生することでB細胞を活性化して抗体反応を調節することで液性免疫に関与している。また、最近同定されたタイプ9細胞(Th9)の詳細な機能については不明な点が多いが、IL-9を産生することで気管支喘息の重篤化に関わることが知られている。これらのThサブセットは、特異的に産生するサイトカインで他のサブセットへの分化を抑制していることから、IL-9の転写量を、各サブセットを用いたRT-PCR法で解析したところ、Th1細胞において強いIL-9の転写抑制が認められた。おそらく、この転写抑制されているTh1細胞において、IL-9サイレンサーが機能していると推測された。そこで、このサイレンサー領域から転写されるlncRNAの転写開始点と終結点をRACE法で解析したところ、全長約500 bpの2つのlncRNAがセンス・アンチセンスの両鎖から互いにhead-headで転写されていることが判明した。これら2つのlncRNAはイントロンを含んでいなかった。さらに、これらのlncRNAに結合するタンパク質をLC-MS/MSの質量分析法で解析したところ、転写抑制に関係する一連のRNA結合タンパク質が同定できた。以上の解析から、IL-9サイレンサーから転写されるlncRNA はタンパク質と結合した複合体として転写抑制に関与していることが示唆される。現在はlncRNAを含むサイレンサーを欠損したマウスを作製し、マウスレベルでの機能を解析している。以上、lncRNAの実態解明に向けた、おおむね予定通りに研究は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
IL-9サイレンサーから転写されるlncRNAの実態の解明は進んだので、次に、IL-9サイレンサー内に存在すると思われるIL-9サイレンサー特異的なプロモーターを決定する。この同定したプロモーターを組み込んだルシフェラーゼ活性をレポーターとして用いる転写活性測定用のレポーターベクターに組み込んで、各Thサブセット細胞を用いたトランスフェクション測定を行うことで、どの領域に転写活性開始点であるプロモーター活性化あるか決定する。これにより、lncRNAの転写がそのように制御されているか解明する。さらに、lncRNAを含むIL-9サイレンサー領域をゲノム編集法で欠損したマウスを作製したので、このマウスを用いて炎症制御における機能の解明を進める。抗原特異的に炎症誘導できるマウスモデルを活用して、肺炎誘導実験を行い、本lncRNAの機能を解明する。更に、本lncRNAを過剰発現したレポーター細胞株を用いて、lncRNAの活性を増強、または、抑制する低分子化合物の創薬ライブラリーからのスクリーニングを進める。これにより、得られる化合物を活用した新たな炎症制御法の創成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の一部に変更があり、本年度予定の実験を来年度実施に変更したため、その実験に必要な予算を持ち越す必要が生じたため。その実験は、創薬スクリーニングであり、来年度実施する。繰越した予算は、来年度実施予定の創薬スクリーニング実験で使用する。
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