研究課題/領域番号 |
18K08898
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
小野川 傑 埼玉医科大学, 保健医療学部, 教授 (90224287)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 敗血症 / IL6 signaling / 肺障害 / 低体温 |
研究実績の概要 |
Trans-signalingと呼ばれる血中可溶性IL6レセプター(sIL6R)を介したIL6 signalingを利用した臓器保護の可能性を検討する目的で、昨年度に引き続きこれまで試料採取して保管されている検体の解析を中心に、敗血症における低体温下での免疫機能の変化について解析した。 盲腸結紮穿孔(CLP)後の肺ホモジネート液を用いて肺組織におけるIL6 signalingに必要なSTAT3の活性化について検討した。その結果、CLP後6時間でSTAT3の活性化を認め、特に低体温を示す個体の活性化が高い傾向を認めた。その後24時間では術前と同じレベルに戻っていた。リコンビナントIL6RをCLP後に投与した群では、術後6時間までの動きは対照群と同じであるが、術後24時間でもSTAT3活性化を認めた。一方、trans-signalingを遮断する目的でリコンビナント可溶性gp130を投与した群では対照群と同じ動きをした。 そこで、血中及び肺組織のIL6Rを定量した。血中IL6R量は体温と相関が高く、低体温ほど血中IL6R量は低値であった。一方、肺組織中IL6Rは、術後より経時的に増加していた。そこで、炎症による血管透過性亢進により、血中IL6Rが肺組織中に漏出している可能性を考え、アルブミン量を定量したところ、アルブミンの低下と肺組織中のIL6Rの増加が逆相関していた。一方、IL6R投与群はアルブミン低下率が他群よりも改善されていた。 以上のことから、低体温による組織障害の悪化理由として、血管透過性亢進による血中IL6Rの組織への漏出が示唆され、早期に復温することにより改善できる可能性が推測された。これまでにCLP個体へのIL6R投与が復温を促すことを明らかにしており、IL6R投与後の個体の解析を引き続き実施する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
CLP後に回収した被検試料の解析に必要な測定試薬の入手に時間がかかった。 また今年度も新型コロナ感染症の感染拡大による大学における講義形態の変更により、オンライン講義のための準備に要する時間がかなり必要となり、教育エフォートが非常に高くなった。これにより十分な研究時間を確保するのが困難であった。
|
今後の研究の推進方策 |
敗血症モデルマウスにおける低体温と臓器障害の関係性が明らかになりつつある。 CLP後に低体温を示した個体の臓器障害の悪化は、可溶性IL6R投与による復温で一時的にせよ改善できる可能性があることがわかってきた。次年度において復温後の臓器障害に関与する因子の変化を検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度も新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、教育にかかる時間数が大幅に増加したため、新たに実験を進めることが難しくなった。このため、測定対象項目を絞らねばならず、予定していた組織学的検討が間に合わなかったため、次年度使用額が発生した。 次年度においては、今年度の結果を踏まえて新たに組織学的解析が必要になるため、これらの解析に必要な試薬等に計画的に使用する予定にしている。
|