重症外傷の急性期における線溶活性化、その抑制、およびそのバランスの変化は、まだ十分に解明されていない。そこで本研究では、重症鈍的外傷モデルラットを用いて、外傷後数時間における線溶活性化、その抑制、およびそれらのバランスの経時的変化を明らかにすることを計画し実施した。 麻酔後、Noble-Collip drumにより重症鈍的外傷を受傷させたラットモデルを用いた。Control(外傷なし)、外傷受傷直後(0分後)、60分後、180分後の4群(各7匹)から血液と各種臓器を採取した。 外傷受傷後、凝固の活性化の指標である可溶性フィブリンは経時的に増加していた。 外傷受傷直後には、tissue-Plasminogen Activator (tPA)が大量に放出され、Plasminogen Activator Inhibitor-1(PAI-1)の抑制効果を上回り、線溶は活性化側に傾いていた。この事象を反映して、外傷受傷直後の活性型tPAと活性型PAI-1の比率は、Controlの比率を上回っていた。 各臓器におけるPAI-1の産生は外傷受傷後に徐々に増加し、その結果として、血漿中の活性型PAI-1濃度は指数関数的に増加していた。そのため、鈍的外傷受傷から数時間後には線溶反応が強く抑制されていた。活性型tPAと活性型PAI-1の比率は経時的に低下していた。 Plasmin-α2 Plasmin Inhibitor Complex(PIC)レベルの上昇は受傷後60分以上継続して観察されたが、これはPICの半減期が長いため、受傷直後のPIC上昇の名残を見ているだけであると考えられた。
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