本研究ではプロバイオティクス由来の腸管バリア機能増強物質を用いて、腸管をターゲットとした新規敗血症治療薬の基盤的研究を行うことを目指した。当研究室で同定されたプロバイオティクス由来物質である長鎖ポリリン酸は腸管バリア増強の機能があることが明らかにされている。敗血症や急性膵炎など多臓器不全へと進行し死の転帰をたどる病態において、腸管は多臓器不全を抑える重要な働きをしていることが明らかにされつつある。本研究では このポリリン酸が腸管バリア機能を発揮することで敗血症や重症急性膵炎の予後を改善させる効果があるかどうかについて研究を進めた。 最終的にセルレイン誘発急性膵炎モデルを用いる実験系において、ポリリン酸投与が膵臓の炎症を抑制する効果があることが明らかになった。この作用機序として16SrRNAメタゲノム解析の結果から、ポリリン酸の経口投与によって腸内細菌叢の変化が起こり、炎症増悪に関連する Desulfovibrioなどの菌群を減少、逆に炎症改善に作用する有益な菌群であるAlistipesを増加させること、および腸管バリア機能を増強させる作用の両者を介して、膵臓でのNOD-1を介したNF-kB活性化をブロックする機序が考えられた。
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