平成30年度の研究でASCノックアウトにより軽度外傷性脳損傷(MTBI)後のマウス脳内炎症反応が抑えられ、高次脳機能障害が軽減されたことが証明された。令和元年度ではMTBIモデルマウスの脳組織を調べた結果、白質の損傷と活性化したグリア細胞がMTBI後1週目からマウス脳内の広範囲で確認できた。MTBI後12週目で、WTマウスに比べてASCノックアウトマウス脳内の活性化グリア細胞が有意に減少した。MTBI後24週目でASCノックアウトマウス脳内Phospho-tauの増加の程度がWTマウスより有意に低いことも確認された。昨年度(令和二年度)引き続きグリア細胞の活性化が神経組織そして脳機能に及ぼす変化を調べた。MTBIモデルマウスの脳を免疫染色、ELISAとRT-PCRなどの方法で調べた。その結果、白質の損傷がMTBI後1週目から広範囲で認められた、24週目にWTマウスに比べて、ASCノックアウトマウス脳内の白質損傷範囲が有意に減少した。さらに、MTBI後12週目でWTマウスに比べてASCノックアウトマウス脳内にオリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーが多く発現した結果から、ASCノックアウトマウスでは損傷した白質の回復が促進されたと考えられる。 MTBI後ASCノックアウトマウス脳内炎症が抑えられ、白質損傷の回復が促進され、WTマウスより高次脳機能障害が軽減されることが確認できた。これらの結果から、MTBI後の高次脳機能障害が白質の損傷と神経炎症の拡大に関連していると考えられる。また、MTBI後のPhospho-tauの増加が神経炎症の抑制により減少した結果から、慢性外傷性脳症(Chronic Traumatic Encephalopathy、C T E)の発症が神経炎症と白質損傷の長期化に関連する可能性が考えられる。
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