研究実績の概要 |
高齢者敗血症と獲得免疫障害 敗血症は感染による多臓器障害でその死亡率は高い。特に65歳以上の高齢者は敗血症患者の約60%であり、その死亡者数の約80%を占める(Javadi et al. J Surg Res. 2006)。申請者は65歳以上の高齢者敗血症の3ヶ月後生存率は18-64歳の成人敗血症の約4倍である(Inoue, et al. Crit Care Med. 2013)。 高齢者のT細胞は活性化されにくく、高齢者敗血症患者では約3週間にわたりリンパ球減少症が遷延することを発見した(Inoue, et al. Crit Care Med. 2013)。以上よりT細胞の数と機能の低下に伴う獲得機能免疫障害が高齢者敗血症の予後不良因子の一つと考えられ、今後はいかにT細胞を再活性化できるかが高齢者敗血症治療の課題となる。 高齢者は免疫機能以外の身体的な加齢性変化を伴っているため、申請者らは免疫細胞の分化を司る「造血幹細胞」に注目している。加齢に伴う全身的な影響を除外するため申請者は生後20ヶ月の老化マウスまたは生後8週の若年マウスの骨髄を照射後の若年マウスに移植し、造血幹細胞生着後に敗血症モデルを作成し、免疫老化が敗血症に与える影響を評価し知見が得られた。1)若年マウスの骨髄を移植したマウスと比較して、高齢マウスの骨髄を移植したマウスでは敗血症の生存率が有意に低い。2)老化マウスの骨髄を移植した若年マウスではT細胞数の減少および活性化障害されていた。3)老化マウスの骨髄を移植した若年マウスの造血幹細胞はリンパ系共通前駆細胞に分化しにくい。 このため申請者は免疫老化の原因に、造血幹細胞の老化とそのミエロイド系/リンパ球系の分化バランス障害があると考えている。しかし、その詳細なメカニズムは不明で、その分化バランスの関連遺伝子は十分検討されていないため、今後研究を展開したい。
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