近年、心肺停止患者の蘇生率は向上している。一方で、蘇生後の患者は脳症や腎不全などの臓器障害を伴うことが深刻な問題となっている。それらの発症機序は未だ明確でなく、有効な治療法の確立に至っていない。蘇生後脳症の患者の中には記憶障害のみが残存し社会復帰が困難な場合がある。この様な記憶障害を持つ患者数が増加することは、社会的損失となる可能性がある。また腎機能障害も同様であり、特に末期腎不全の場合には社会復帰に大きな障害となる。 本研究では、心肺停止蘇生後の脳および腎機能障害に対する新規治療法の開発を目指すべく、脳・腎臓における蘇生後病態発症機構の分子基盤を明らかにすることを目的としている。 これまでに、虚血による脳症モデルマウスでは海馬領域における遅発型神経細胞死と炎症性細胞であるミクログリアの異常活性化が見出されている。さらに、ミクログリア除去マウスにおいて蘇生後脳症にみられる海馬領域の神経細胞死が有意に抑えられ、蘇生後脳症によるミクログリアの異常活性が遅発型神経細胞死を誘導している可能性があることが示されている。しかしながら、ミクログリアの異常活性化から遅発型細胞死に至る機序は不明であり、未だ詳細な関係性の解明に至っていない。虚血による腎機能障害も同様であり、炎症メカニズムを含む障害メカニズムについて明らかになっていない点が多い。本研究では実施計画に基づき、脳・腎臓において心肺停止蘇生後(各組織虚血再灌流後)の遅発型細胞死のメカニズムを各種遺伝子改変マウスやin vitro実験系などを駆使し明らかにする。 当該年度中(令和5年度)は、昨年度に引き続き、数種の遺伝子改変マウスに腎虚血再灌流処置を施し、急性腎不全(障害)モデルを作製することで、本病態発症(増悪、軽減)に関わる因子の特定を行い、病態悪化に関わる詳細な分子メカニズム(作用機序)の解明にむけた検討を行った。
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