H30・R1年は、血管内皮機能障害を伴うラット慢性虚血後過灌流モデルとして、7週齢雌ラットの両側卵巣を摘出(エストロゲン減少)+腎動脈結紮等による血管内皮機能障害を惹起後、一定期間後に総頚動脈を一側結紮+他側高度狭窄による慢性虚血を作成、3日後に狭窄を解除して過灌流を観察した。脳血流測定にはlaser speckle flowmetry (LSF)を用いた。一部のラットで過灌流が観察されたが、結果は不安定で、理由としては、卵巣・腎臓に対する手術死亡が多かったこと、LSFによる脳血流測定のばらつきが大きく、脳虚血や過灌流が観察しにくいことが考えられた。 とくに後者は、LSFによる脳血流測定という本研究の根本的な問題と思われたので、R2年度は、LSFの精度と安定性を向上するための実験条件を改めて基礎的に検討した。 その結果、LSF測定による脳血流は、体温、体温調整のためのヒーティングのオン・オフ刺激、血圧、呼吸性体動などに大きな影響をうけていた。また、測定部位の開頭後の硬膜を乾燥させるか湿潤を保つかでも経時的なLSF測定値の変動が大きかった。これらの変動要因を一つ一つ解決することで、再現性のよいLSF測定が可能になった。すなわち、開頭手術後、測定部位を一定時間静置させないと測定値がばらつくこと、日を変えて経過を追う場合は軟膏塗布が有効であること、頭部固定により測定値が安定すること、ヒーターのOnあるいはOffが強い刺激となって脳血流を変動すること、外部標準物質を用いると変動を小さくできることなどである。これらは、過去の論文で部分的に検討されたことがあったが、総合的系統的に検討した研究は乏しく、新しい知見と思われた。 この結果を反映させて再度、慢性虚血の血行再建後の過灌流を作成したところ、当初より安定した脳血流測定が可能となり虚血や過灌流を明瞭に観察することができるようになった。
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