研究課題
急性期脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法は、転帰改善効果が証明されているが、くも膜下出血などの機械的侵襲に伴う頭蓋内出血が生じ得る手技である。血栓回収療法後くも膜下出血の予測因子や臨床転帰への影響、くも膜下出血を回避可能な治療手技は明らかではない。本研究では、茨城県の血栓回収療法施行施設が参加するRICOVERYレジストリ―より、血栓回収療法の実態、くも膜下出血を含む合併症の予測因子・臨床的意義を探索している。本年度は、17施設より集積された997例を検討し、経時的に血栓回収療法症例数は増加(127例 [2015年]→312例[2019年])も、完全再開通率(64.6%→50.7%, p for trend = 0.006)、日常生活自立率(35.3%→24.1%, p for trend = 0.003)は減少し、年次経過は完全再開通率(OR 0.869)、日常生活自立率(OR 0.857)に負に関連したことを明らかにした。治療適応の拡大や経験の浅い術者の増加等が要因と考えられるが、くも膜下出血等合併症との関連につき引き続き検討予定である。加えて、2020年はCOVID-19により医療体制が大きな影響を受けたが、急性期脳卒中診療の動向を明らかにするため、茨城県の脳卒中センターにアンケート調査を行った(18施設参加)。2020年2~5月の急性期脳卒中症例数は前年同時期と同水準も脳梗塞症例数は前年に比し減少した。COVID-19診療施設では、脳梗塞症例数が顕著に減少した一方、COVID-19非診療施設では脳梗塞症例数は維持され、脳出血やアルテプラーゼ静注療法施行数は増加に転じ、COVID-19非診療施設による補完が脳卒中診療の維持につながっていた。成果は学会等で発表した。本研究は、血栓回収療法の安全な治療手技確立に資するのみならず、地域医療体制の確立にも貢献する研究である。
3: やや遅れている
多数例を登録したレジストリを継続し、研究成果を複数報告しているが、コロナ禍の影響もあり、血栓回収療法後くも膜下出血の臨床的・画像的予測因子の解析が途上である。
RICOVERYレジストリを継続し、更なる知見の集積を図る。コロナ禍による症例数減少で影響を受けているが、新規全自動灌流画像解析ソフトウェアRAPIDを用いた急性期脳主幹動脈閉塞の画像解析(出血性合併症予測因子の解析)も並行して行っていく。また、コロナ禍による急性期脳卒中診療の影響についても検討を継続する予定である。
コロナ禍による研究進捗遅延および国際学会での発表機会を逸したことにより、諸経費が当初見込みより低額であったことが挙げられる。次年度は引き続きデータベース構築・解析を行い、それに係る諸経費に使用する。
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