研究課題/領域番号 |
18K08940
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
降旗 建治 信州大学, 医学部, 特任准教授 (90021013)
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研究分担者 |
本郷 一博 信州大学, 医学部附属病院, 特任教授 (00135154)
後藤 哲哉 信州大学, 医学部, 特任准教授 (30362130)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非侵襲的頭蓋内圧モニタ / 外耳道内圧脈波 / 自発呼吸器変動 / 頭蓋内共振現象 / 脳圧亢進症状 / LPC分析合成法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳神経外科領域で必要とされる頭蓋内圧(ICP)変動を非侵襲的にモニタすることのできる装置を開発することである。医療測定器としてのICP値は、直流成分であり、脳室ドレーンや ICP センサ設置など侵襲的な方法でしか達成できない。一方、蝸牛水管と内耳の解剖学的所見から、ICP の影響を受けた交流圧変動は、内耳・中耳・鼓膜を介して外耳道内圧(EACP)脈波として観察できる。医工連携の研究体制下で臨床試験を実施して「安定したICP測定精度を維持したEACP波形情報の深層学習による非侵襲的 ICP 推定法の確立」を目指して、50種類以上の独立要因(EACP波形情報とスペクトル情報、線形自己回帰モデル、患者情報)を取り上げ検討した。その結果から、線形自己回帰モデルAR係数の寄与率が高いことが明らかとなった。 EACP信号について、AR過程が成り立つと仮定し、線形予測誤差を最小にするように線形予測係数を決めるのが線形予測(LPC)の原理である。この原理に基づき、頭蓋内特性を単純な共振特性と捉えスペクトル包絡を求めることで、普遍的な「頭蓋内共振現象」が急浮上した(Goto et al, Scientific Reports, 2020)。具体的に、心臓から駆出される血流脈波は、頸動脈、椎骨動脈を経由し脳に至ることで、ICP脈波を形成する。この頸動脈波からICP脈波までの伝達関数は共振特性(Natural Resonance Frequency: NRF (Hz))を示す。我々は、「ICPが上昇すると脳コンプライアンスは著しく低下し、そのNRFも上昇し、この上昇率は、ICPに対して指数関数的関係にある。このNRFは脳重量に依存するが、ほぼ一定で、ICP上昇をきたす疾患や年齢、全身状態によらないこと」を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深層学習法による推定原理のメカニズムを明らかにするため、頭蓋固有共振周波数(NRF)がEACP波形情報から如何に抽出できるかを詳細に検討した。 具体的に、ICP脈波とEACP脈波は解剖学的な接続があるため、両者をパワースペクトル解析すればその共振周波数が含まれているはずである。 そこで、EACP脈波だけからNRFが求められるかどうかを検討した。 線形予測(LPC)分析・合成法は、その計算過程で頭蓋内共振包絡特性と心拍である頸動脈脈波音源特性 (微細スペクトル構造) が分離されて現れるはずである。 LPC分析フィルタは、入力である頸動脈脈波スペクトルに適応する白色化フィルタであり、このスペクトル包絡を適切なプリエンファシスフィルタとして理想的な頸動脈脈波スペクトル包絡モデルが構築できれば、LPC合成フィルタを用いれば望ましい単一共振包絡特性を有するEACP信号に加工できるはずである。 現在、理想的な頸動脈脈波スペクトル包絡モデルは、単純な3次回帰曲線で必要な共振周波数範囲(5Hz~50Hz)において構築できた。 これは、血圧や血管壁の硬さ、血液の粘度、反射波などの多くの個々人の環境因子よりも、もっとずっと単純に脳がゆすられて共振していて、それは頭蓋内圧のみに依存しているから出てくる結論である。 そのプリエンファシスフィルタを組み込んで、これまで臨床試験で得られた有効な27名の患者データに適用した結果、EACP脈波信号だけからICP推定の測定精度を左右する実測「頭蓋内単一共振特性」曲線が得られることが明らかになった。 したがって、上記推定法の確立に心血を注いだため、これらの成果は、特許出願、学会発表および雑誌論文により公表する段階に至っていない。 しかし、ICP推定メカニズムを明らかにするという観点から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
原理的に、頭蓋内共振特性は、入力を頸動脈脈波信号とし、出力をEACP信号として伝達関数法で計測可能である。しかし、頸動脈圧センサを患者の首部位総頚動脈上に設置することは、解剖学的に内頚動脈と総頚動脈との位置関係が左右ともに動静脈が部分的に重なっているため、脳圧を上昇させる恐れがある。 そこで、課題1は、「EACP脈波信号処理だけからICP値がどの程度の精度で推定できるか」を明確にする。ICP値推定のための自動化プログラムは、進捗状況で述べたLPC分析・合成法を採用して開発する。具体的に、① 頭蓋内共振周波数範囲を決定する。微分EACP脈波信号をLPC分析し、スペクトル包絡から6次多項式トレンドを除去し、5Hzから50Hzまでの周波数範囲において、相対レベル(dB)正側の周波数成分多項式近似曲線から、最大ピーク周波数を検出する。② 伝達関数の推定で頭蓋内単一共振特性を求める。入力信号は、LPC分析結果の残差信号をピーク周波数から計算可能な理想的な頸動脈脈波スペクトル包絡モデルによってプリエンファシスフィルタを施し、逆FFT手法で時間信号に変換して求める。出力信号は、LPC分析結果からFIR線形予測子フィルターを使用して、過去の値の線形結合に基づき、自己回帰信号の今後の値の推定値を取得する。③伝達関数モデルを推定する。上記②で求めた伝達関数の周波数領域のデータを使用して、極nP = 5、ゼロ nz = 3、遅延delay = 0 の連続時間伝達関数を推定する。その結果から、共振周波数とQ値を得る。 課題2は、上記問題に対応するため「新たな微差圧センサを開発し、①総頸動脈部位、橈骨動脈部位、側頭動脈(頭部こめかみ付近)部位等に設置したセンサ出力信号から、理想的な頸動脈脈波スペクトル包絡への変換の可能性、②ICP値高低による頭蓋内からの反射特性が明確化できるか」などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
・コロナ禍等の理由により延長届を提出し、認可されたことと、購入物品の納品日が、次年度となったため、次年度使用額が生じた。 (使用計画) ・次年度使用額は4月に納品予定の物品購入に使用する。
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