研究課題/領域番号 |
18K08962
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石川 栄一 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30510169)
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研究分担者 |
松田 真秀 筑波大学, 医学医療系, 講師 (30614333)
坪井 康次 筑波大学, 医学医療系, 名誉教授 (90188615)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / 免疫療法 / PD-L1 / マクロファージ / PI3Kγ阻害剤 |
研究実績の概要 |
人工の神経膠腫幹細胞を用いて、長期の化学療法剤処理によって化学療法耐性幹細胞を得た。オリジナルの幹細胞と化学療法耐性幹細胞を用いて、in vitroとin vivoにおける細胞の特性と、治療による効果を検証した。 In vitroでの解析により、化学療法耐性幹細胞はオリジナルの幹細胞に比べ細胞増殖が遅く、化学療法耐性の一因となる遺伝子の発現が上昇していた。免疫チェックポイント分子のPD-L1のmRNAおよびタンパク質発現は両方の細胞で確認された。また、オリジナルの幹細胞および化学療法耐性幹細胞の両方において、マクロファージの誘導、分化に関する因子の発現が確認され、特に化学療法耐性幹細胞においては細胞性免疫を抑制するIL-10の発現が増加していた。化学療法耐性幹細胞の培養上清は、マウス骨髄細胞由来のマクロファージを免疫抑制性の表現型に誘導することが分かった。 In vivoでの解析により、マウス皮下での腫瘍増殖はin vitroと同様に化学療法耐性幹細胞で遅い傾向があり、抗PD-L1抗体による腫瘍増殖抑制効果が表れやすかった。ただし、治療後経過を診ると後期には腫瘍増殖が起こるため、無治療のコントロールと腫瘍組織像を比較したところ、抗PD-L1抗体治療を行うと極早期の段階から腫瘍中へのマクロファージ浸潤が起こっていることが明らかとなった。そこで、マウス皮下腫瘍モデルに対して抗PD-L1抗体と免疫抑制性マクロファージ阻害剤の併用効果を確かめるため、未治療、抗PD-L1抗体単独、免疫抑制性マクロファージ阻害剤(PI3Kγ阻害剤)単独、併用群の4群に分けて治療を行った。4群の中で併用群は有意(ボンフェローニ補正t検定)に腫瘍増殖抑制効果が確認され、抗PD-L1抗体の投与で起こった治療早期のマクロファージ浸潤が抑えられることが腫瘍組織像の解析で分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳腫瘍幹細胞を用いた実験得られた成果を学術誌(Brain Tumor Pathology)に報告した。今後は臨床検体を用いた解析とともに、必要性を再検討したうえでiPS細胞の研究に移行したい。
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今後の研究の推進方策 |
マウス皮下腫瘍モデルにおいて、抗PD-L1抗体、免疫抑制性マクロファージ阻害剤(PI3Kγ阻害剤)併用の有効性が期待される結果が得られたことから、これらの実験で判明した機序のさらなる解明のためにiPSを使用した実験にも移行していく。同時に、臨床における免疫療法の効果の指標にマクロファージの浸潤などが関係するかを、免疫療法をうけた、もしくは受けていない患者群の組織を用いた解析を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬などの消耗品の使用が2019年度は予定より少なかったことと、抗体などの消耗品の購入や論文校閲費用などが2020年度に持ち越したため、次年度使用額が発生した。
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