2019年度に行った、もやもや病患者4例と対照として未破裂脳動脈瘤患者4例の中大脳動脈血管壁の遺伝子発現解析の結果を論文化し投稿したものの、査読者からは、サンプル数の不足により、発現変動遺伝子解析における多重検定の問題をクリアできないとの指摘を受けた。そこで2020年度はもやもや病患者と、新たに対照としたてんかん患者の脳表動脈血管壁検体からのtotal RNAの抽出とマイクロアレイデータの蓄積をおこなった。もやもや病患者11例と対照9例の統計学的な比較では、もやもや病群において62個が高発現、26個が低発現の発現変動遺伝子として抽出された。アレイデータに対するGene set enrichment analysisでは、もやもや病群において免疫応答・炎症に関わるパスウェイが高発現、酸化的リン酸化反応に関わるパスウェイが低発現であった。また抽出した発現変動遺伝子に対して定量PCRを行ってマイクロアレイの再現性の確認を行った。これらの結果基づき、改稿した論文を現在欧文誌へ投稿中である。またこれらの発現変動遺伝子がコードしている蛋白質を標的として、ウェスタンブロット法を用いた、もやもや病病変部血管における蛋白の定量解析を進めている。さらに病変部における、もやもや病感受性遺伝子変異の遺伝子発現への影響の調査を目的として、現時点でもやもや病患者21例についてマイクロアレイを実施、野生型7例とヘテロ接合体型14例の比較を行った。現在結果について論文化を進めている。今後は特に若年の対象群の検体を蓄積することで、もやもや病の主たる年齢層である、18歳未満の患者群にfocusした遺伝子発現解析を行っていく予定である。また、方法については今後マイクロアレイに代わり次世代シークエンサーを用いることで、再現性の確認や、新たな知見を得ることができるものと考えている。
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