研究実績の概要 |
急性期脳梗塞モデルにおいて、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた肝細胞増殖因子(HGF)強発現DPSC(DPSC/HGF)を静脈投与することにより、対照群およびDPSC単独群に比し虚血再灌流7日後における有意な梗塞縮小効果を認め, 皮質梗塞境界領域 における炎症性サイトカイン発現の抑制や神経細胞死の有意な軽減を認めた。また、虚血再灌流3日後においてDPSC/HGF投与群では、Evans blue血管外漏出量の抑制やBBBのtight-junction蛋白ZO-1やOcclusionの発現保持を認めたことから、DPSC/HGFはBBBの機能維持に働いた可能性が示唆された。さらに、DPSC/HG群ではDPSC単独投与に比べて虚血再灌流14日後の皮質梗塞境界領域 における脳微小血管密度の有意な増加を認めた。運動機能評価については、DPSC/HGF群ではDPSC単独群に比べてRota-Rod試験における有意なriding timeの延長や上肢握力の有意な改善を認めた。さらに、PKHで標識したDPSCsまたはDPSCs/HGFを投与し、移植細胞の追跡を行なったところ、虚血脳半球では再灌流72時間後に移植細胞の脳内生着を両群共に認めたが、再灌流14日後では認めなかった。 脳虚血再灌流モデルにおいて、DPSC/HGF静脈投与により抗炎症作用やBBB障害の軽減、血管新生作用を介した脳保護効果が示され、運動・認知機能の改善が促進された。移植されたDPSCs/HGFは長期間生存しないことから、宿主におけるHGF発現増強は一過性であり、免疫抑制等の副作用も少ないと考えられた。この研究成果は、遺伝子修飾を施した治療用細胞を損傷脳組織に導入し、適切な期間維持させる方法を開発する基盤となり、新規脳梗塞治療へとつながる可能性がある。
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