研究実績の概要 |
小児脳腫瘍である髄芽腫(medulloblastoma)は、小脳に発症する悪性腫瘍である。これまでに、髄芽腫細胞が分泌する『軸索誘導因子netrin-1』が髄芽腫細胞の浸潤性や血管新生を誘導することを見出した。そこで、netrin-1が髄芽腫癌幹細胞とその周辺環境組織に影響を与える『癌微小環境制御因子』ではないかと考えた。本研究では、髄芽腫癌幹細胞におけるnetrin-1とそのレセプターの役割を解明し、髄芽腫幹細胞のnetrin-1シグナルを標的とする阻害剤の探索・開発を行い、新たな髄芽腫治療薬の開発を目指す。 本年度においては、上皮間葉転換EMTの発現に関する検討を中心に行った。髄芽腫細胞にnetrin-1を過剰発現する細胞(D425, D458, D556細胞の3種類)では、親株細胞と比較して間葉系マーカーである転写因子2種の発現が上昇していた(ウエスタンブロットと定量PCRにて確認した)。さらに髄芽腫モデルマウス(smo/smo)から摘出した小脳サンプルにおいても間葉系マーカーが上昇しており、netrin-1によるEMTの関与が示唆される結果となった(ウエスタンブロットと免疫染色にて確認した)。 一方で、netrin-1とそのレセプターへの結合を阻害する阻害剤探索のための評価系作成を進めている。Netrin-1リガンドは全長ペプチドに加えて、ドメインごとに分割したペプチドを作成している。これまでにnetrin-1リガンドとレセプターの代表として全長UNC5Cペプチドの作成を完了している。今後は結合実験として、アルファスクリーニングを行う予定である。
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