研究実績の概要 |
小児脳腫瘍である髄芽腫は、小脳に発症する悪性腫瘍である。髄芽腫細胞は非常に細胞遊走・転移能が高いため、小脳から脳実質、脊髄に播種転移する傾向があり、この場合、予後は非常に悪い。髄芽腫に対しては外科的手術後、放射線や化学療法が一般的であるが、とくに高転移タイプ髄芽腫に対してはいまだ確立された治療法はなく、髄芽腫の発症メカニズムも含めてさらなる基礎的研究が必要とされている。私はこれまでに、髄芽腫細胞自身から遊離されるnetrin-1が浸潤能の促進に関わっていることを見出し、バイオマーカーとしての有用性を提案してきた。本年度は髄芽腫モデルマウス(自発発生モデルと髄芽腫細胞移植モデル)を用いてnetrin-1の髄芽腫に与える影響を評価し、髄芽腫治療薬開発に向けた基礎的検討を行うことを目的とする。髄芽腫自発発症モデル(smo/smo)における解析では、小脳におけるnetrin-1リガンドおよびレセプター群の発現を評価した。その結果、smo/smoマウスではnetrin-1およびneogenin, UCN5C受容体が増加していることが明らかとなった。さらにEMTマーカーであるvimentin, beta-cateninが上昇していた。移植に用いたD458細胞においてEMTマーカー発現を評価すると、netrin-1過剰発現細胞において数種のEMTマーカーが上昇していることが明らかとなった。これらの結果から、netrin-1がEMTを誘導し髄芽腫の転移を促進している可能性が示唆された。
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