研究課題/領域番号 |
18K08994
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
細田 弘吉 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (90403261)
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研究分担者 |
篠山 隆司 神戸大学, 医学部附属病院, 教授 (10379399)
甲村 英二 神戸大学, 医学研究科, 名誉教授 (30225388)
篠原 正和 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80437483)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ischemia reperfusion / stroke / metabolomics / heat shock protein / geranylgeranylacetone |
研究実績の概要 |
我々は,ガスクロマトグラフィー質量分析装置を用いて,ラットの脳虚血再灌流時の脳組織代謝メタボローム解析を行い,パスウェイ分析を行ったところ,ペントースリン酸経路(PPP)とタウリンーヒポタウリン経路が最も強く再灌流と関連していることをを見出した.また,脳虚血再灌流時の脳組織のマイクロアレイ解析により(MAPKシグナル経路の転写増加を見出した.このMAPKシグナル経路中6番目に亢進しているheat shock protein 27 (HSP27)はPPPの律速酵素 glucose 6-phosphate dehydrogenase (G6PD)の活性を上昇させ,G6PDはNADPHを産生し還元型グルタチオンの再生産を促進,抗酸化状態を維持するのに貢献する.HSP27はAtaxia telangiectasia mutated kinase (ATMK)の下流でリン酸化される.そこで,虚血再灌流障害の際にもこれらの機構が働くと言う仮説を立て,ラット脳虚血再灌流モデルで検討してみると,HSP27リン酸化は亢進し,G6PD活性は増大し,NADPHは増加していた.また,ATMKを阻害するとHSP27のリン酸化とG6PD活性亢進が阻害されること,蛋白のカルボニル化(酸化ストレスの指標)が増大すること,脳梗塞の体積が有意に増大することが確認され,我々の仮説が確認された. 以上の結果より,逆にHSP27誘導すれば虚血再灌流障害に対する保護作用を示すとの仮説を立て検討した.HSP27誘導作用を有するGeranylgeranylacetone (GGA)をratの脳室に投与し効果をみた.HSP27とそのリン酸化やG6PD酵素活性は虚血再灌流によりコントロールよりも増加したが,GGAの投与により,これらの値はさらに有意に増加した.また,虚血再灌流により増加したカルボニル化蛋白はGGAの投与により有意に減少した.さらに,GGAの投与により虚血再灌流後脳梗塞のサイズは有意に減少した.以上の結果より,GGAは,HSPのリン酸化を増加することでG6PDを活性化し,抗酸化作用を増強することで再灌流障害を軽減する効果を有すると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のごとく,脳虚血再灌流の際にペントースリン酸経路が亢進して内因性抗酸化機構として働いていることが確認できた.この抗酸化機構において,HSP27はリン酸化を介してG6PD活性を亢進させていると考えられた.そこで,治療への応用の可能性を探るために,HSP27の誘導薬であるGGAを投与したところ,虚血再灌流のみの時よりも脳梗塞のサイズが縮小することを確認でき,それ以外の生化学的指標も虚血に対する保護を示唆する結果であり,我々の仮説を支持するものであった.これらの結果を国内学会や国際学会で発表した.また,論文としてまとめ国際雑誌にアクセプトされた.以上のごとく,順調に進捗していたが,COVI-19蔓延のためにそこからの実験がなかなか進められない状況に陥り,予定していた実験が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
上述の結果より,GGAによるHSP27の誘導が中大脳動脈閉塞後再灌流により引き起こされた脳梗塞のサイズを縮小させることが判明した.これらの結果が臨床的な改善をもたらすかどうかを確認するためにGGA投与後の虚血再灌流ラットモデルにおいて神経学的異常が軽減するかどうかを調べる実験を行う予定である.また,この分子機構を明らかにするために,HSP27の増加自体が有効なのか,あるいはそのリン酸化が有効なのかを決定する必要があり,HSP27のリン酸化酵素であるMAPKAPK-2の阻害実験などを行う予定である.これまでの実験の問題点はGGA投与が虚血前ということである.臨床応用のためには虚血後にGGAを投与した場合でも有効かどうかを確認する必要がある.また,脳室内投与は臨床応用が困難であり,静脈内投与でも有効かどうかを確認する必要がある.さらに,HSP27を誘導する他の薬剤,すなわち,celastrol, FLZ, carbenoxoloneなどの薬剤の投与下での脳虚 血再灌流時の代謝変化や梗塞サイズの変化,機能予後に対する影響を調べ,最も有効な薬剤を探求していきたい.上記の実験は,本来であれば昨年度に遂行する予定であったが,COIVD-19蔓延のために実験遂行が困難であり,本年度に行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19蔓延のために実験遂行が困難となり,未使用の助成金が生じたためである.感染症が終息し,実験再開できる状況になり次第,残された実験を行うための費用として使用する予定である.
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