研究課題/領域番号 |
18K09018
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊東 伸朗 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10731862)
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研究分担者 |
小林 寛 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20407951)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | FGF23 / 低リン血症 / 骨軟化症 / 免疫染色 / ナノ粒子 / 鑑別診断 / 骨折 / 偽骨折 |
研究実績の概要 |
FGF23は成熟骨細胞が産生する内分泌因子であり、腎尿細管でのリン再吸収とビタミンDの活性化を抑制することで血中リン濃度を低下させる作用をもつ、生理的な血中リン濃度の調節因子である。FGF23の産生が不適切に増加すると慢性低リン血症を惹起することで、骨の石灰化が抑制され骨軟化症を発症し、偽骨折や骨折といったQOLを著しく低下させる病態に繋がる。後天的にFGF23の産生が不適切に増加する疾患としてはFGF23産生腫瘍による腫瘍性骨軟化症がよく知られており、1-10万人に1名の発症頻度と考えられている。FGF23産生腫瘍は骨腫瘍や軟部組織腫瘍であることが多く、サイズが小さいこともあるため局在診断が困難な場合があるが、ソマトスタチン受容体シンチグラムや全身静脈のFGF23サンプリングを施行することで局在診断の精度は近年向上している。しかしながら原因腫瘍がみつからない後天性FGF23関連低リン血症性骨軟化症症例も少なくない。そこで、このような症例で腸骨生検を行い、FGF23の免疫染色を施行することで、FGF23が腫瘍から産生されているのか(FGF23免疫染色陰性)、骨全体で産生されているのか(FGF23免疫染色陽性)を鑑別する手法を想起した。ただし実際にはFGF23の発現量が非常に少ないことから、より正確に鑑別するために高感度で定量的な免疫染色が可能なPID(Phosphor Integrated Dot nanoparticles)というナノ粒子を用いた高感度免疫染色法を利用することとした。 2018年度は7名の変形性股関節症患者さんの股関節置換時の骨手術検体を利用して、正常骨でのFGF23免疫染色でのFGF23発現定量を行った。2019年度はさらに6名の変形性股関節症患者さんの骨手術検体および2名の腫瘍性骨軟化症患者さんの腫瘍、正常骨検体を用いてFGF23高感度免疫染色を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、2018年度に施行した7名の変形性股関節に加えて、さらに6名の変形性骨関節症患者さんの骨手術検体および2名の腫瘍性骨軟化症患者さんの腫瘍検体と手術時に得られた腫瘍周囲の正常骨検体を用いてFGF23高感度免疫染色を行った。 これまでに施行した変形性股関節症患者さん13例(STD群)と血液透析中の慢性腎不全患者2例、および腫瘍性骨軟化症2例の正常骨組織(TIO群)におけるFGF23高感度免疫染色でのFGF23発現量の比較を行った。本検討では細胞核から5.5μm以内に存在するPID粒子数を計測する帰属法を用いて解析している。FGF23のPID粒子数の平均値はSTD群153.7、HD群357.7、TIO群19.0であり、我々が予想した通りにSTD群と比較して、腫瘍性骨軟化症症例の正常骨ではFGF23の発現抑制が起こっていることがナノ免疫染色法により証明できた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はさらに腫瘍性骨軟化症の手術検体を2例で入手し、これまでの症例とあわせて、腫瘍性骨軟化症患者の骨細胞におけるFGF23発現抑制を高感度免疫染色で確認する。 さらに実際に原因腫瘍が見つかっていない後天性FGF23関連低リン血症性骨軟化症症例で施行された腸骨生検検体に対して同様の免疫染色を行い、当該症例での低リン血症の病因の鑑別に実際に有用であるかを確認していく。 また遺伝性FGF23関連低リン血症などの、全身骨でのFGF23産生亢進による疾患症例の手術時の骨検体などがもし入手できれば、全身骨でのFGF23産生亢進例としてPIDナノ免疫染色によるFGF23産生の非抑制を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
種々のFGF23関連低リン血症や透析患者における骨検体でFGF23のナノ免疫染色を検討している。同疾患の骨の手術があった際に骨検体を回収しており、本研究のプロトコールに沿ってナノ免疫染色をおこなう特殊な疾患の骨検体でまだ未検査で今後施行予定のものをすでに回収しているがまだ検査を出来ていないため、検査費が残っている状況である。本残余となっている研究費は次年度(2020年度)早期に使用する予定である。
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